北朝鮮は「処罰も気にしない」 平壌開催中止を韓国人記者はどう見た?【コラム】
3月24日にFIFAが北朝鮮×日本に関して「試合の開催および日程変更はない」と発表
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)サッカー協会は3月21日にアジアサッカー連盟(AFC)に対して予定されていた北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選日本戦の平壌開催が不可能になったと通告し、その結果、26日の試合は中止になった。
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この件について、韓国人はどう考えているのか。英誌「Four Four Two」韓国語版の編集長を務めたこともあるホン・ジェミン記者は、「今回の出来事はこんな感じです」とユーモアを交えて例えた。
「道を歩いていると大きなフンを踏み、靴は汚れてしまったけれど、誰も責めることはできません」
韓国メディアも実際に同じような被害に遭ったことがあるという。
「北朝鮮は、2019年10月15日に開催された2022年のカタールW杯予選アジア2次予選、北朝鮮のホーム戦で、韓国メディアの入国とテレビ放送を拒否しました。彼らは最後まで韓国メディアと韓国サッカー協会(KFA)になんの情報も提供せず、ライブ放送どころか試合後の放送もありませんでした」
「彼らは試合の2、3日後にKFAにハイライト映像を提供しました。韓国のすべてのメディアはKFAのオフィスに集まって一緒に視聴したのですが、それは滑稽な光景でしたね。そして、その提供されたダイジェスト映像は規格外の画質の悪さだったので、韓国の放送局はそのビデオを放映することが不可能でした」
この時期には南北の関係がどんどん冷え込んでいった。ホン・ジェミン氏は「2020年6月16日には北朝鮮の開城(ケソン)に建設されていた南北共同連絡事務所を爆破しています」という例を挙げる。
そういう経験があるので、ホン・ジェミン氏は今回の平壌開催中止を「まったく驚きませんでした」と言う。
「彼らは、韓国や日本に負けるかもしれないスポーツ競技を自国で見せたくないのです。北朝鮮は現在日本で感染が拡大しているとされる劇症型溶血性レンサ球菌感染症を恐れていると言っていますが、それが本当かどうかは誰にも分かりません」
困るのは北朝鮮のサッカー選手だけ
たしかに2019年の韓国との試合は急遽、無観客試合になった。見せたくないというのは本当かもしれない。
だが、2011年11月15日に平壌で日本と対戦した時、アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表は負け知らず。それなのに金日成競技場は5万人の観客で埋まっていた。しかも平壌で日本はまだ勝ったことがなく、今回の3月21日に行われた国立競技場での試合でも日本は1点しか奪えなかった。その意味で北朝鮮が恐れをなしたということではないようだ。
それよりも北朝鮮が考えるべきは、平壌開催を中止したことの今後への影響だろう。2月のなでしこジャパン(日本女子代表)との対戦は平壌で開催できず、今回は直前にキャンセルになった。アジアサッカー連盟(AFC)と日本サッカー協会(JFA)は2度、振り回された形になった。北朝鮮はAFCからの扱いが変わるのではないかと心配になって、今後は態度を変えるのではないか。
ホン・ジェミン氏は「何も変わらないでしょう」と予想する。
「国際サッカー連盟(FIFA)とAFCは北朝鮮を罰することができます。ですが、北朝鮮という国は罰せられるかどうかということについてまったく関心がないんです。北朝鮮のアスリート全員は悲しいことに政府からそういう扱いを受けています。U-23ユベントスでプレーしていたハン・グァンソンが北朝鮮に戻ってきました。彼はとても大きな可能性を秘めていたのに、ある時突然姿を消していました。それは考えられないことです」
そして、ホン・ジェミン氏はこんなアドバイスをしてくれた。
「北朝鮮のさまざまな決断を分析しようとする前に、1つ知っておかなければならないことがあります。彼らは、国連、アメリカ、FIFA、AFC、世界中の誰からの処罰も気にしていません。もしもFIFAが北朝鮮のW杯出場を禁止したとしても、彼らは何も気にせず『どうぞやってください』と考えるでしょう」
2月、3月と振り回された日本は、FIFAやAFCから北朝鮮になんらかの処罰があるのを期待するだろう。だが、それは北朝鮮をなんら困らせない。正確には、困るのは北朝鮮のサッカー選手だけということになるはずだ。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。