なでしこは体験しなかった平壌開催 森保ジャパンとファンに懸念される“現地の脅威”【コラム】

北朝鮮と対戦する日本【写真:ロイター】
北朝鮮と対戦する日本【写真:ロイター】

2011年は約150人のファンが現地を訪問

 なでしこジャパン(日本女子代表)は2月28日、パリ五輪アジア最終予選第2戦で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)女子代表を破り、パリ五輪本大会への出場を決めた。北朝鮮には初戦のホームゲームが平壌で開催できなかったことが悔やまれたに違いない。

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 アジアサッカー連盟(AFC)は平壌を視察に行こうとしたものの、飛行機の航路が通常運航に戻っておらず訪問できなかった。そのことが、開催地が変わった要因の1つだとされている。だが、3月26日に予定されている森保一監督率いる日本代表との試合は平壌で開催すべく、現在はさまざまな調整が行われているということだ。3月初旬に予定されているAFCの平壌視察の結果が待たれる。

 もしも平壌で開催された場合、日本のファンは現地を訪れることができるのか。2011年のブラジル・ワールドカップ(W杯)アジア3次予選が開催された時は、2泊3日で28万8000円公式ツアーが組まれて65名が参加した。また、ほかの旅行代理店もツアーを組んでおり、現地を合計約150人が訪問したとされている。

 2023年9月、朝鮮民主主義人民共和国サッカー協会副書記長の李康弘(リ・ガンホン)氏は、「(日本代表戦は)先に(ホームで)試合をする日本側が(北朝鮮からの観客を)受け入れれば、我々も多くのファンの人たちを受け入れるようにしたいと考えているようです」と語っており、今回もツアーが組まれる可能性はある。

 ただし、日本は北朝鮮と国交を結んでいない。また北朝鮮のミサイル発射などに対する国連の安保理決議に基づき、日本はさまざまな制裁措置を執っており、渡航自粛を要請している。2011年の予選の時は特例的に自粛要請が緩和されたが、訪朝にあたって現地で土産などを買って金銭を消費しないことなどが求められた。

 また、国交がないため日本大使館が存在せず、政府による邦人保護はできない。そのため個人の行動についてはほかの国を訪れるよりも一層の注意が必要になってくる。何気ないと思うことが相手の神経を逆なですることにもつながるのだ。

3月21日のホーム戦でまずは勝利できるか

 2011年に訪朝した際、ガイドの人たちから注意されたのは、街中にある肖像画を写真に撮ることについて。「私たちが本当に尊敬している方々です。だから写真を撮る時は斜めから撮るのではなく、ちゃんと正面からきちんと写真に撮ってください」という言葉は今でもはっきり思い出せる。

 空港での写真も厳しく制限された。空港は軍事目的でも使用されため、記念撮影をしようとすると特に制限に引っかかる。警察官の代わりに軍人が笛を吹いて違反を指摘するのだが、その迫力には萎縮してしまうだろう。

 ただ、2011年の時は、報道陣を除くとファン・サポーターのカメラは空港で保管された。またGPSが付いているスマートフォンなどもすべて空港で預けることになっていた。

 携帯電話を預けると中のデータを抜かれてしまうのではないかと思い、スマートフォンの機能を使って1度でも間違ったパスワードを入れようとするとデータがすべて消えるように細工をして預けた。だが、戻ってきたスマートフォンには何の変化もなかったため、何もされなかったか、小細工は通用しなかったか、どちらかだったのだろう。

 スタジアムの雰囲気も独特だ。ほぼ360度をぐるりと囲まれ、得意の大規模な“マスゲーム”が始まる。ほかの国のスタジアムなら、歌は少しずつずれてしまうものだが、平壌ではユニゾンになる。理由は各列の前に立っている指揮者同士がスタジアム全体でリズムを合わせているから。2011年の際は、3日前から練習が行われていたということだった。その迫力はほかの国では見たことがない。

 そういう特殊性も相まってか、日本は平壌で勝利を収めていない。過去4試合を戦って2分2敗、0得点3失点とまだゴールを挙げたことすらないのだ。

 1979年8月23日、下村幸男監督率いる日本は親善試合を平壌で行い、0-0と引き分けた。1985年4月30日、森孝慈監督率いる日本は1986年メキシコW杯アジア1次予選で対戦し、0-0で引き分けた。1989年6月25日は1990年イタリアW杯アジア1次予選で対戦し、横山謙三監督が指揮した日本代表は0-2と敗れている。

 そして、2011年11月15日、それまで負け知らずのアルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表も2014年ブラジルW杯アジア3次予選で対峙し、0-1と敗戦を喫した。この点を踏まえても、北朝鮮は平壌で開催したいに違いない。

 もし、AFCが視察に納得せず中立地の開催になったら、それは日本にとって朗報になる。過去中立地で9試合戦い、3勝1分5敗と負け越してはいるものの、まだ分が良くなる。特に1993年のJリーグ発足以来は3勝1分2敗だが、そのうち1勝1分2敗は国内組中心だったE-1選手権(東アジア選手権)の成績。海外組まで招集した2試合では2勝、5得点無失点と圧倒している。

 もっともアウェー戦の前の3月21日にホームゲームがあることを忘れてはならない。過去、ホームでは6試合を戦い、5勝1分、8得点3失点と無敗なのだ。まずはホームの試合で圧倒し、成績でも精神的にも優位に立ってアウェーに行くことが大切になるだろう。

 そのために森保監督はアジアカップの、アクセルを踏んでもなかなかスピードが上がらなかったチーム状態を今一度調整しなければならない。カタールで日本は決して調子が良くなかったということを振り返りつつ、慎重に北朝鮮戦をスタートすることになる。決して楽な戦いにはならないはずだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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