天才・小野伸二を象徴する3文字…「楽しむ」誕生秘話 熟考の末に導き出した9年前の結論【インタビュー】

ラストゲーム後の引退会見で記者の質問に答える小野伸二【写真:(C)mm】
ラストゲーム後の引退会見で記者の質問に答える小野伸二【写真:(C)mm】

ラストゲームに向けて書かれた直筆の「楽しむ」、取材殺到の中で生まれた一言

 2023年12月3日のJ1最終節・北海道コンサドーレ札幌対浦和レッズ戦、小野伸二は26年間の現役ラストゲームを終えた。試合後に行われた引退会見場のバックパネルには、小野伸二を象徴する『楽しむ』の文字。これは、ラストゲームに向けて書かれた直筆で、「自分を表す一言を書いてほしい」というリクエストに小野はさらりとペンを走らせたという。小野伸二の『楽しむ』が生まれた日のことを札幌の広報・田子大地さんが話してくれた。

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   ◇   ◇   ◇

 伸二さんが『楽しむ』という言葉をかつて書かれた日のことをハッと思い出したんです。2015年、伸二さんのコンサドーレでの初めての長期キャンプ(沖縄)でのことです。その時、稲本(潤一)さんがチームに入ったばかりでもあったんです。

 伸二さんは2014年の6月10日に札幌に来られて、11日に入団会見をさせてもらいました。登録をして出場できるのは7月20日の大分戦で、デビュー2週間前にはしっかりゲームに集中してもらいたいということで、6月10日に来られてから約3週間はいろんな取材対応をお願いしました。個別の取材申請は50件を超えていました。全部はお受けできなかったんですが、伸二さんがかなりの本数の取材を受けてくださいました。

 さらに、道内メディアは年末年始の撮り溜めをしてくださるので、伸二さんには、その年の11月にもすごくたくさんの取材を受けてもらってたんです。そして、年始には稲本さんと一緒に初キャンプに入ると、「2人の対談をさせてください」という取材希望が鬼のように来ました。

 伸二さんには、6月と11月にすでに受けていただいているのに、さらに稲本さんとの対談をやるのは大変だと思って、個別対談はやらずに一斉にやろうということになりました。

 その対談で、伸二さんに「ご自身を表す言葉を一言、色紙に書いてください」というお題が出されて、伸二さんは、それを真剣にずいぶん長い間考えて、僕にも「どんなワードがある?」とアイデアを聞いてこられて、いろんな話をしながら、「やっぱり楽しむだな」って、その時に『楽しむ』と書かれたんです。それが9年前のことです。それ以降は意外と伸二さんに対して、自分を表す言葉を一言でというようなことを言われることはなかったんです。

 今回、ラストゲームに向けて、いろいろなものに使えるようにとグッズ担当が伸二さんに直筆で一言もらおうということで、改めて自分を表す言葉を書いてほしいとお願いしたんです。

 そうして書かれたのが『楽しむ』でした。

 伸二さんの中で変わらず『楽しむ』なんだなと文字を目にした時に「やっぱりな」って、9年前のことが蘇ってきたんです。伸二さんが9年前のやり取りのことを覚えておられるのかは、聞いていません。

引退会見の様子。バックパネルには小野伸二が大切にする『楽しむ』の直筆文字【写真:(C) mm】
引退会見の様子。バックパネルには小野伸二が大切にする『楽しむ』の直筆文字【写真:(C) mm】

小野伸二が引退会見で見せた“らしい”受け答え「この空間も楽しんでいます」

 引退会見の時にこんな質問が出ました。

「楽しむということをモットーにプレーされてきたと思いますが、一番楽しんでいた瞬間は?」

 それに対して伸二さんが、「楽しむというのはサッカーだけじゃなくて、今みなさんにお話させていただいているこの空間も楽しんでいます」と、すべてのことを楽しむことが大事だという言い方をされた時に、伸二さんらしいなと思いました。

 時に取材者は「質問をしなければいけない」ということにとらわれてしまうことがあると思いますが、お互いに楽しめば自ずといい言葉が出てくるなと、あの時感じました。

(mm)



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