三笘不在も出来は「過去最高レベル」 ブライトン監督が自信…起用に応えた大ベテランと新鋭MFの躍動【現地発】
スコアレスドローも“難敵”ウェストハムに「納得」の出来を見せたブライトン
「ミトマが試合に出るのなら、私は誰よりも日本代表のファン」
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ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督は言った。現地時間1月2日のプレミアリーグ第20節ウェストハム戦後(0-0)、アジアカップ代表メンバーとして招集された三笘薫に質問が及んだ際の返答だった。
言うまでもなく、前線の要人である左ウインガーは左足首の怪我で欠場中だ。クラブの指揮官は、「(起用が)最善策だと判断されるのであれば」と付け加え、代表側に念を押すことも忘れてはいない。とはいえ、日本へのリスペクトを前面に押し出す発言を可能にした理由の1つには、三笘を含む計9名の欠場者を抱えていながら、自らのチームらしい戦いぶりで今季後半戦をスタートできた「納得」があったと思われる。
当の指揮官は、「私の下では過去最高レベルの出来」とまで言っている。7割近くボールを支配し、シュート数もウェストハムの6本に対して22本を記録したブライトンのように、内容の優位を結果に反映し損ねたチームの監督にありがちなセリフではある。だが、この日のデ・ゼルビに関しては負け惜しみ半分の自軍評価ではないと感じられた。スコアレスドローに終わってはいても、前節での勝利(4-2)と同等以上の説得力を持つチームパフォーマンスだと理解できた。
第19節で対戦したアンジェ・ポステコグルー率いるトッテナムは、リーグ順位で2つ上の5位につけているチームではあるが、理論上、デ・ゼルビのブライトンにとっては戦いやすいチームでもある。敵がプレッシングに頭数を割き過ぎた瞬間、ピッチの幅も活かした迅速なビルドアップに入る自軍にすれば、攻守に積極果敢なチームは後方でパスを回しながら罠にかけやすい。
一方、デイビッド・モイーズ率いるウェストハムは、6位とのアウェーゲームであったこと以上にやりに難い相手だと考えられた。ポゼッションにはこだわらず、カウンターやセットプレーに勝機を見出す得意のパターンは、首位を争うアーセナルからの勝利という成果を前節でもたらしたばかりでもあった。
三笘薫も参考にすべきミルナーの絶妙クロス
実際、ブライトンはリードを奪われかけもした。GKのジェイソン・スティールが、ジェームズ・ウォード=プラウズの左足シュートを防いだ前半28分、相手MFが逆の利き足でボレーを打てる状況であればネットを揺らされていたかもしれない。後半16分には、モイーズ曰く「最大のチャンス」がトマーシュ・ソウチェクに訪れたが、ウェストハムのセンターハーフがゴール正面で合わせたはずのシュートは枠外へと向かった。
しかし、それ以上に勝ち点「3」に迫ったのはブライトンだった。自ら敵のカウンターを招くようなミスを犯すこともなく、攻撃的な自分たちのサッカーを貫いて幾度もチャンスを作り出したのだから。リーグ公式サイトでは、セーブを連発した相手GKのアルフォンス・アレオラが、ファン投票によるマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)に選ばれているほどだ。
そのブライトンの中でも、特に目に付いた選手が2名。1人は、三笘のいない左サイドで2試合連続の先発となったジェームズ・ミルナーだ。完全な左ウイングの代役というわけではなく、前節では4-1-2-2、この日は4-3-1-2だったシステムで左インサイドハーフを務めている。だが当然、外に開いてボールを受ける場面は訪れる。そして、「三笘なら」と思わせるシーンもあった。
例えば、前半22分。中盤のタッチライン沿いで受けて前を向いたが、スライディングタックルを受けてスローインに逃げられている。38歳の誕生日2日前だったミルナーに、リーズで16歳のウインガーとしてデビューを果たした2002年当時のスピードがあるはずもない。それでも、ビルドアップがアタッキングサードへと進めば、タイミングもコースも絶妙なクロスが左サイドから入る。ドリブラーの三笘も、プレーの選択肢として磨きをかけても悪くはないだろう。
3センター逆サイドのパスカル・グロスには、ヘディングシュートが相手GKの正面をついた前半42分の時点で先制のチャンスが提供されていた。後半41分、MFのヤクブ・モデルがボックス内でのシュートを吹かしてしまった絶好機も、ミルナーのクロスがきっかけとなっていた。試合後の指揮官も触れていたように、フルタイムをこなしても「エネルギーのレベルが落ちない」大ベテランとしても心強さを印象づけた。
18歳MFヒンシェルウッドは今や完全な“デ・ゼルビ軍の一員”
もう1人は、対照的にスタメン最年少だったジャック・ヒンシェルウッドだ。18歳の守備的MFは、3試合連続で右サイドバック(SB)として起用された。見た目は高校生風だが、そのプレーは、本職とはピッチ上での景色も責務も異なるポジションでも堂に入っている。デ・ゼルビのチームでは「肝心」と言える攻撃面も及第点以上。この日も、ボールタッチの過半数が相手コート内だった。
前半32分、ブライトンが最初に先制点に迫った場面では、アレオラのセーブに遭ったが自ら2試合連続ゴールにも迫ってみせた。セットプレーの流れから、ゴール前での嗅覚も鋭くリバウンドからシュートを狙える位置に顔を出すと、高く跳ねたボールを巧みにボレーで捉えている。そうかと思えば、後半29分の2枚替えに伴う3バックへのシステム変更後は右ストッパー役。右ウイングバックとして投入されたモデルに、ジェスチャーを交えてコーチングを行う姿まで見られた。
ヒンシェルウッドは、試合を中継した英衛星放送「スカイ・スポーツ」のプレーヤー・オブ・ザ・マッチにも選ばれている。ヒーローインタビューで「パターン練習の段階で全てがクリア。全員、やるべきことが分かっている」と語るアカデミー卒業生は、1軍定着1年目ながら完全にデ・ゼルビ軍の一員だ。同じことが、移籍1年目でチーム最年長のミルナーにも言える。
監督が特徴的なスタイルを短期間でチームに浸透させることは容易ではない。ブライトンは、グレアム・ポッター前体制中にポゼッション重視の下地が出来上がってはいても、昨季開幕後に発足したデ・ゼルビ体制下でのスタイルは、攻撃の緩急という強烈なひねりが効いている。
国内では、同日にバーミンガム・シティ(2部)でウェイン・ルーニーが監督の職を追われることになった。国際的なネームバリューと強い攻撃色を欲しがったオーナーの一存で生まれたルーニー体制は、成績不振で3か月と持たなかった。その点、現役当時から“ビッグネーム”ではなかったものの、新世代の指揮官として評価を上げ続けるデ・ゼルビ自身と、そのイタリア人を後任監督に選んだブライトンの腕前は大したものだ。
それを今更のように痛感させられたウェストハム戦、デ・ゼルビのブライトンは訴え掛けているかのようだった。アフリカ・ネーションズカップとアジアカップ開幕も重なる今季後半戦突入に際し、巷では怪我や代表活動によるレギュラー陣の欠場に視線が集まっている。だが本当に目を向けるべきは、チームから失われる力ではなく、代わりにチームでチャンスを得て発揮される力なのだと。
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。