崖っぷちを救った起死回生の同点ゴール 昌平らしさを伝えたハーフタイムの監督の金言「遊び心を欠いたら…」【高校選手権】

昌平の村松明人監督【写真:徳原隆元】
昌平の村松明人監督【写真:徳原隆元】

村松監督「少し厳しいことを言って後半に送り出した」

 第102回全国高校サッカー選手権は2023年12月31日、首都圏8会場で2回戦16試合が行われた。高校生年代最高峰の大会、プレミアリーグに所属する東西の強豪が激突した2回戦屈指の好カードは、昌平(埼玉)が米子北(鳥取)をPK戦で下した。

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 昌平は新春1月2日の3回戦で、前々回準優勝、前回ベスト4の大津(熊本)と対戦することになった。大津は今季のプレミアリーグWESTで4位だった。

 1-0。米子北がほぼ勝利を手中に収め、昌平は年を越せない崖っぷちに追い込まれていた。

 3分のアディショナルタイムも40秒ほど経過していた試合終了直前だった。右サイドバック(SB)田中瞭生(3年)がMF大谷湊斗(2年)との壁パスから右サイドを突破すると、ゴール前に鋭いクロスを届けた。これを後半31分から出場していた1年生のMF長璃喜がヘディングで合わせ、まさに起死回生の同点弾を叩き込んだ。

 ゴールが決まった次の瞬間にタイムアップの笛が鳴り、PK戦決着へ突入した。

 両チームとも先頭が失敗するスタート。2人目はそろって決めたが、先蹴りの米子北は3人目が左ポストに当て、昌平は3番手から最終キッカーまでが確実に仕留め、4-3で激闘にピリオドを打った。

 奈良育英(奈良)との1回戦を7-0というゴールラッシュで制したが、この日の昌平は米子北の完成された組織守備と1対1の対応に大苦戦。前半、得点の可能性があったシュートは前半22分のMF前田大樹(3年)がGKに防御された1本しかなかった。

 村松明人監督はハーフタイムに厳しくも適切な助言をした。

「頑張ること、走ること、戦うことはもちろん大切ですが、前半はどうも頑張ることを優先していたみたいに感じました。昌平のサッカーが遊び心を欠いたらマイナスに働くし、もっと考えてプレーしてほしかった。少し厳しいことを言って後半に送り出したんです」

 ところが後半7分、米子北のセンターバック(CB)藤原壮志朗(3年)の左ロングスローを起点に先行された。ゴール前の混戦からFW鈴木颯人(2年)がシュート、MF柴野惺(2年)にこぼれ球を蹴り込まれた。

 昌平はこの直後、いずれも攻撃担当者を4人送り込んで戦況打開をもくろんだ。

 後半25分のMF長準喜(3年)の決定打はGKに右足でクリアされ、同30分に右コーナーキック(CK)からCB佐怒賀大門(3年)が放ったヘッドもGKに阻止される。同39分の長準喜、アディショナルタイムのMF西嶋大翔(3年)のヘディングシュートもわずかにバーを越えていった……。

 そこに奇跡的な同点劇が到来し、PK戦勝ちにつなげたのだ。

 会見場に現れた米子北の中村真吾監督は消沈し切った状態で、「いや、もう、2点目を取れなかったことが、結果的に失点につながった」と声を絞り出した。勝利を九分九厘手にしていただけに、ショックの色がにじみ出ていた。

 米子北は1回戦から先発の陣容を5人も代えてきたが、村松監督は「プレミアリーグのメンバーに戻すことを予想していたので、驚きはなかった」と説明する。

 主将の佐怒賀も「動揺することは全くありませんでした。相手の2トップは強力なので、(CBを組む坂本)航大とチャレンジアンドカバーで応対した」と話し、「今年はプレミアリーグでいろんな特長のチームと戦えたことが、チームの成長と今日の勝利につながったと思う。対戦相手から学んだこともたくさんあります」と主将らしい言葉で締めくくった。

(河野 正 / Tadashi Kawano)



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河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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