Jクラブのエンブレム刷新に賛否 ファン反発「変更の意味があるのか」の声も…時代に沿った“シンプル化”は妥当か【コラム】

Jクラブのエンブレム刷新を考察(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
Jクラブのエンブレム刷新を考察(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

J各クラブが新デザインを発表も、シンプル化が大きな波紋を呼ぶ

 エンブレムのデザイン変更は過去にも数多く行われてきたが、ここ最近は「ミニマル化」とも呼ばれる、シンプルなデザインにする傾向が非常に強まっている。1つの呼び水となったのが2017年、イタリア1部セリエAのユベトスだ。お馴染みの縦の楕円形に白黒の縦縞を入れたデザインから、「J」という文字をグラフィック調にしたシンプルなデザインを発表し、大きな波紋を呼んだ。

 エンブレムと言えばクラブのアイデンティティーを表すもので、だからこそ長年見ていれば愛着も湧くし、変更には反発も起きる。しかし、アパレルなどサッカー面に限らない事業展開ではプラスに向いている評価もあり、純粋にクラブの象徴を示すエンブレムというより、ロゴとしての意味合いも強くなっているようだ。

 2021年にはユベントスのライバルでもあるインテル・ミラノが変更を行った。もともとのエンブレムから見て、ユベントスほど大きな変化はないが、ユニフォーム以外のファッションでのビジネスマーケティングにもメリットをもたらしているようだ。青と白を使って、インテル・ミラノを表す「IM」をより強調するデザインとなった。こうした動きは欧州の各国で見られるようになって来ており、伊東純也と中村敬斗の所属するフランス1部スタッド・ランスなどでも起きている。

 変更の目的として共通するのはシンプルにクラブのアイデンティティーを伝えると同時に、サッカーにとどまらず、現代にマッチしたビジネス展開を可能にすることだ。クラブのエンブレムはサポーターにとって伝統を伝える象徴でありながら、良い時も悪い時もともに歩んできた思い入れのあるものという認識が、サッカーファンの中で共通しているだろう。しかし、外側の人間、ここから新規のファン&サポーターになり得る人たちに、シンプルに伝えて、覚えてもらうという効果はあるのだろう。

 そうした動きを日本でいち早くキャッチしたのがガンバ大阪だ。青と黒のカラーを基調としながら「G」を模ったシンプルなデザインは発表された時点で、賛否両論を産んだ。知らない人が見たらサッカークラブのエンブレムとは分からないようなデザインは広まりやすさ、ビジネス的なメリットは間違いなくあるが、もともとのエンブレムには大阪の鳥「もず」と大阪の木「いちょう」をあつらい、クラブ創設年の「1991」が記されていた。そうしたものは新たなデザインから失われたが、時間が経つにつれて疑問が、あまり話題にならなくなっているのも確かだ。

従来のエンブレムを残しつつ、マーチャンダイス用として新たに設けるのは一案

 そして今年の10月26日にFC琉球が、28日にFC東京が立て続けにエンブレムの「ミニマル化」を意識したデザインを発表。FC東京はクラブの25周年を転機に「継承と革新」をテーマとして変化した。「首都東京は、古いものと新しいものが混じり合う街」というイメージを込めているようだが、もともとのデザインも、そこまで複雑ではなかったことから、現代的な感覚でも変更の意味があるのかという疑問の声も見る。

 琉球に関しては根っからのファンサポーターの愛着だけでなく「対のシーサー」を象徴に、沖縄を想起させるもので、概ね評判も良かった。新しいデザインは「対のシーサー」が中央で噛み合うようなデザインになっているが、反発の声というのは大きい。やはりクラブとともに歩んできた伝統のエンブレムで、重みというものが伝わってくる。

 クラブは「FC琉球理ブランディング」と題して「創設20周年を機に、多様化・グローバル化していくクラブの象徴としてクラブ名称・エンブレムなど各種プロパティをアップデートいたします」とオフィシャルで説明しているが、事後報告のようになってしまったことが問題となり、サポーター有志がクラブに意見交換を求めた。その結果として、FC琉球側はエンブレム変更について再考することをリリースしている。

 現実的なソリューションとして考えられるのは従来のエンブレムを残しつつ、新案のデザインをクラブのシンボルマークとしてマーチャンダイスやブランドマーケティングに活用していくというものだ。今後に向けて、クラブのリブランディングとしてエンブレムの変更を検討しているJリーグのクラブはあるかもしれない。そうした時に大事なのはプロセスをサポーターにしっかりと説明しながら進めるということだろう。

 ただ、どういったデザインを提示しようと、こうしたサポーターの反応が出るのは必至だろう。そう考えた時に、公式のエンブレムは従来のもので残しつつ、幅広いビジネス展開などにマッチしたシンボルマークを考案していくのは1つの解決策の1つとは言えるかもしれない。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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