U-17W杯で飛躍へ―日本代表2人のキーマン 元Jリーガーの父を持つボランチ&高卒→海外で期待…左のスペシャリスト【コラム】
父・中島浩司氏譲りのクレバーなボランチ中島洋太郎
今年3月に本格始動した第2次森保ジャパンの快進撃が目立っているが、3年後の2026年北中米ワールドカップ(W杯)まで全く同じメンバーで戦い続けられるわけではない。やはり若い世代の底上げは不可欠である。
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そこで注目されるのが、3年後に20歳前後になるU-17世代。2022年カタールW杯で最年少が21歳の久保建英(レアル・ソシエダ)だったことを考えても、次こそはもっと若い選手たちが日本代表に滑り込まなければならない。11月のポーランド戦から幕を開ける2023年U-17W杯(インドネシア)に参戦する面々には大きな飛躍が求められるのだ。
森山佳郎監督は「この世代は多彩なFW陣がいる」と21人中5人をFWに割いている。すでにJ2デビューを果たしている道脇豊(ロアッソ熊本)、6月のAFC・U-17アジアカップ(タイ)でMVPに輝いた名和田我空(神村学園)らが名を連ねているが、彼らがゴールを奪うには確実に攻撃を組み立て、決定機をお膳立てしてくれる存在が必要になる。
キーマンの1人と言えるのが、ボランチの軸を担う中島洋太郎(サンフレッチェ広島)だろう。
ベガルタ仙台、ジェフユナイテッド千葉、サンフレッチェ広島でプレーした中島浩司氏を父に持つ彼は高校2年生ながら今年9月にプロ契約を締結。10月21日のセレッソ大阪戦と28日のFC東京戦でベンチ入りしている新進気鋭のMFだ。父・浩司氏譲りのクレバーさに加え、巧みな攻撃センスを備えた逸材は、10月31日の関東大学選抜との練習試合でも道脇のゴールの起点となる鋭いパス出しを披露。非凡なセンスを見せつけた。
「父さんからは『こういうアイデアもあるんじゃないの』とかアドバイスをもらうことも多いです。サンフレッチェのファンの方はやっぱり中島浩司の息子ってことで期待してくれていますけど、特にプレッシャーは感じていませんし、自分らしくやることを心がけています。ボールを持った時のプレーは自分の特徴なんで、沢山ボールに関わることを意識してW杯でもやりたいし、守備でも頑張りたいと思います」と彼は目を輝かせた。
実際、今大会の日本はポーランド、アルゼンチン、セネガルという強国揃いのグループに入っている。となれば、主導権を握る時間は少なくなるかもしれない。中島自身、守備面は課題だと自覚しているものの、広島のトップチームで体感した基準をピッチで表現していく覚悟だ。
「野津田(岳人)選手や川村(拓夢)選手なんかと練習から一緒にプレーしていますけど、やっぱり守備の強度は彼らに比べると足りないなと痛感させられます。そこはしっかりやらないといけない。グループリーグは本当に楽しみですし、自分の持っているものを全部出して戦っていきたいと思っています」とトップの経験を最大限生かして、日本の中盤を力強く牽引していくという。
3年後に遠藤航(リバプール)、守田英正(スポルティング)らがひしめく日本代表ボランチ陣に名乗りを上げるためにも、今大会で森山監督が掲げている「ファイナリスト」という目標を達成することはマストと言っていい。世界で堂々と存在感をアピールし、来季の広島で主力としてプレーするようになれば、本当に高い領域が見えてくる。そのくらいの野心を持って世界の大舞台に挑むべきである。
福田師王の後輩で伊東純也が飛躍したヘンク入団が決定の吉永夢希
もう1人のキーマンは左サイドのスペシャリスト・吉永夢希(神村学園)。彼は1学年上の先輩・福田師王(ボルシアMGⅡ)の背中を追いかけるように、Jリーグを経由せずに海外挑戦に踏み切ることを決めたばかりだ。吉永が選んだのはベルギー1部のヘンク。伊東純也(スタッド・ランス)が昨夏までプレーし、大ブレイクしたクラブである。
「小さい頃から世界で挑戦したいっていう気持ちがあって、早めに行けるのなら行ってやりたいっていう気持ちがあって覚悟を決めた感じです。欧州の候補は3つあって、ドイツにも行きましたけど、ヘンクに練習参加した時の雰囲気が一番よかった。温かく練習に入れてくれて、分からないことも教えてくれたりしたので『ここでやりたい』と思いましたね。
伊東純也選手のことはクラブでも少し聞きました。クロスのボールスピードだったり、質だったり、オフ・ザ・ボールの動き出しっていうのが本当にすごいなと思いながら代表戦を見ています。伊東選手みたいに自分も欧州5大リーグにステップアップしたい。そうなれるように頑張っていきます」と本人も偉大な先輩を目標にベルギーで自分自身を高めていくつもりだという。
伊東純也とは左右の違いがあるが、レフティの吉永は左サイドを一気に駆け抜け、決定的なチャンスを作る能力がある。左足のクロスの精度も高く、前述の関東大学選抜戦の道脇のゴールもアシストしている。U-17代表で何度かロールモデルコーチを務めた中村憲剛氏も「いい選手」と絶賛していたほどだ。
ポジションは前目もサイドバックもできるが、U-17ではウイングが主戦場。体の線が細く、屈強な相手をぶつかり合った時の弱さがあるため、森山監督も高い位置で起用しているのだろう。
「8月のフランス遠征に行ってからはベンチプレスとか腕のトレーニングをやるようになりました。外国人選手と対峙すると手がメチャメチャ強いし、下半身もガッチリしているんで、そこで当たられた時の弱さを感じて、もっとフィジカルと鍛えないといけないなと思ったんです。欧州で師王さんに会って話した時も『やっぱり体が一番大事だよ』と言われた。そこは意識して取り組まないといけないですね。
そういう課題はありますけど、U-17W杯では自分のストロングをチームに還元して、アシストや得点を狙いに行きたい。『あの選手は海外に行く』と見られると思うし、日本のためにも責任を持って戦いたい。いずれはジョルディ・アルバ(インテル・マイアミ)みたいにつねに得点に絡めて、守備もできて、攻守両面で貢献できる選手になっていきたいと思っています」
そんな理想像を吉永は口にしていたが、彼も順調に成長していけば、いずれ日の丸を背負える人材になるだろう。目下、左サイドバックに関しては日本代表にもスペシャリストは不在。彼が守備力を引き上げ、タフに戦えるようになれば、チャンスが出てくるかもしれない。そういうレベルを念頭に置いて、U-17W杯では暴れまわってほしいものだ。
今回のU-17代表は久しぶりにタレント揃いの集団と評されるだけに、非常に期待値が高い。中島、吉永を含め、果たして誰が突き抜けるのか。それを楽しみにしつつ、ファイナリストという目標を達成する彼らの姿を楽しみに待ちたいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。