雨の国立で輝いたJサポーター J2甲府の“劇的ドラマ”を支えた大きな存在「新たな経験をもたらした」【コラム】
【カメラマンの目】国立には甲府の闘志を奮い立たせるためにさまざまなクラブのサポーターが足を運んだ
それにしてもサッカーチームを応援する人々をサポーターとは上手く言ったものである。
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国立競技場で行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグ第2節、ヴァンフォーレ甲府対ブリーラム・ユナイテッド戦の観客数は1万1802人。多くの観客が甲府の闘志を奮い立たせるための力添えとなるサポーターだった。見れば本来なら甲府と試合をする立場にある、ユニフォームのデザインが違うサポーターもいる。彼ら、彼女らの熱き思いの後押しを受けて、甲府は雨の国立で躍動した。
試合は相手の出方を探るように静かな展開で始まった。両チームとも丁寧にボールをつなぎ慎重にゲームを進め、自陣ゴール前では激しいマークで相手の動きを止めていく。そのためゴールへの決定的なチャンスが少ない試合展開で時間が経過していった。
甲府、ブリーラムともに守備陣は安定感を見せていた。勝ち点をもぎ取るためにはゴールが望まれ、必然的に攻撃陣に変化が求められた。先に動いたのは甲府だった。
後半13分に長谷川元希とクリスティアーノが投入される。この2人によって、それまで慎重にボールをつないでリズムを作っていた甲府に、縦への突破をより意識したプレーが見られチームのスピードが少し上がった。荒っぽさがアクセントとなり、全体的にダイナミックさが増したのだった。
終盤を迎えると甲府の選手交代が功を奏し、途中出場のフレッシュな選手たちがブリーラムゴールに進出しチャンスを作っていった。そして、後半45分に劇的な決勝点が生まれる。
甲府はこれ以上にないドラマティックな展開で勝利を手にし、2試合を消化しただけだがグループリーグ2位と決勝トーナメント進出に向けて好位置に付けた。
甲府の立ち向かう姿勢、刺激されたさまざまなクラブのサポーターたち
甲府はリーグ戦でもJ1昇格のためのプレーオフ出場圏内をキープしており、ACLとともに今後は高い緊張感のなかを戦う、連続した厳しい試合が待っている。現実に目を向ければ、甲府が2つの大会を同時に戦い抜くのは、戦力的に厳しい状況であることは否めない。
しかし、この試合でサポーターたちと喜びを分かち合う選手たちを見ていて感じたことがある。試合後、サポーターに向かって挨拶をする殊勲の長谷川に声をかけると、笑顔でポーズをとってくれた。決勝点をアシストしたクリスティアーノには、向こうから写真に撮ってくれと頼まれ、ブラジル人トリオの3ショットにカメラのシャッターを切った。
そうした甲府の選手やスタッフたちには目の前の試練に対して、消極的にならず立ち向かおうとする姿勢が強く感じられた。言い過ぎかもしれないが、この状況を楽しんでいるように見えた。
日本の代表として、アジアのクラブと戦う舞台で奮闘している甲府の姿に心を刺激され、多くのファンが国立に集結した。そしてこの試合をみた人々は勇敢に戦う姿に感動を覚えたのではないだろうか。
甲府のサポーターもほかのチームのサポーターとともに声援を送るという珍しい体験をした。このACLという舞台への冒険は、甲府のチームとサポーターに新たな経験をもたらしている。ACLを戦うことによって、次はどんな経験が待っているのか。さらなる歓喜を目指して甲府は戦う。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。