首位神戸の強さは本物 天王山・横浜FM戦でサイドの攻防が勝敗のカギを握らなかった訳【コラム】
【カメラマンの目】横浜FM戦は2-0の完勝
終盤を迎えたJリーグがついにリーダーを発見した。リーグ優勝の行方を占ううえで重要となる上位対決の試合で、ヴィッセル神戸は横浜F・マリノスに対して隙のないサッカーで2-0の勝利を奪取。手堅く戦い、一気呵成にゴールを狙う神戸のサッカーの強さはまさに本物だった。
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試合前、神戸の菅原智コーチとわずかだが話をする時間があった。菅原コーチとは彼が現役時代にブラジルのサントスFCでプレーしていた時に取材をして以来の知り合いである。これまでの神戸の戦い方を称賛すると、彼は小さく笑顔を見せていた。
今シーズンの神戸への印象の輪郭を作ったのは、リーグ開幕前の松本山雅とのプレシーズンマッチ(PSM)だった。PSMでの神戸の印象は堅固な守備をベースに、ボールを奪うと両翼の選手がドリブルで攻め上がり、ゴール中央にラストパス。そこからゴールを生み出す手数を少なくしたスピードのある展開を武器としているのが見て取れた。近年、目指していたポゼッションサッカーの流れから一新されたスピードサッカーは、以前と比べてダイナミックさが増していた。
このスタイルはエウベルとヤン・マテウスの左右両ウイングの突破からチャンスを作る横浜FMのスタイルと近く、サイドでの攻防が勝敗のカギとなると予想していたが、試合はまったく違う展開を見せることになる。なぜなら神戸のサッカーは試合を重ね、さらにゴールへと向かう意識が強いスタイルへと変化していたからだ。
何より神戸の選手は攻撃の突破口をサイドからの崩しだけにこだわらず、ボールを早くゴールへと運ぼうとする意識が強く、それが徹底されていた。中盤で厳しい守備を見せていた山口蛍は攻撃に転じると、広い視野から素早くロングパスを前線に供給し攻撃のスピードを加速させていた。
チームの得点源である大迫勇也も自分よりも前線にいる選手がいれば、迷わずパスを選択していた。ドリブルで攻め上がるよりもパスの方が一気にボールを前線へと運べ、相手の守備網の対応が整わないうちにゴールへのチャンスを作れる。このシンプルな攻めが実に効果的で、それほど多くのチャンスを作っていたわけではないが、大迫や武藤嘉紀の攻撃陣が確実にゴールを決めて、アウェーながら試合のペースを握った。
さらに神戸は強力な守備陣が試合を引き締めた。前線の選手も積極的に守備を行っていたが、やはり目に留まったのは強力な最終ラインだ。
横浜FMの得点源であるアンデルソン・ロペスに中盤では扇原貴宏が、そして自陣ゴール前では山川哲史が激しいマークで動きを封じ、両サイドのエウベルとヤン・マテウスのドリブルもペナルティーエリア付近で身体を張って止めてゴールを許さなかった。後半は横浜FMの攻撃に耐える時間が多かったが、ゴール裏からカメラのファインダーを通して見ていても、その守備は鉄壁でゴールを割られるとしたら意表を突いたミドルシュートくらいしかないのではと思えるほど神戸の最終ラインは安定していた。
高い攻撃力を誇る横浜FMとの上位対決を無失点で切り抜け制した神戸。横浜FMの攻撃陣も攻略できなかった鉄壁の守備網が崩れるとしたら、どんな形でゴールを奪われるのか。その方法が思いつかないほど神戸の守備は抜群の安定感を見せ、シンプルな展開からゴールを目指す攻撃とともに展開するサッカーは本物の強さが漲っていた。
試合後、サポーターの前で歓喜する選手たちの後方で喜びを分かち合う指導スタッフたち。吉田考行監督たちの手腕によって神戸のスタイルはいよいよ完成の域に達し、いまリーグの主役として輝いている。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。