森保監督は「人から好かれるのが当然」 W杯の“参謀役”が明かす素顔、究極の優しさの真相【インタビュー】

上野優作氏が語る森保一監督の素顔とは?【写真:Noriko NAGANO】
上野優作氏が語る森保一監督の素顔とは?【写真:Noriko NAGANO】

カタールW杯で森保監督をコーチとして支えた上野優作氏が語る素顔

 森保一――。サンフレッチェ広島で監督就任初年度の2012年にJ1リーグ優勝を成し遂げ、史上4人目となるリーグ2連覇を含む5年半で優勝3回と一時代を築き、18年からはA代表を率いる日本サッカー界を代表する監督の1人だ。その人となりをより深く掘り下げるべく、現役時代に対戦しただけでなく、チームメイト、そして、日本代表で監督とコーチの関係だった経験を持つ上野優作氏(現FC岐阜監督)に、森保監督の素顔について聞いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史)

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 現役時代、守備的MFとして相手の攻撃の芽を摘み、攻撃の起点役も担った森保監督。上野氏はアビスパ福岡、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)、アルビレックス新潟でプレーしていた際に選手だった森保監督と対戦し、サンフレッチェ広島に移籍した2000年には1シーズン、チームメイトとして共闘もした。しかし、敵・味方にかかわらず、印象は変わらなかったという。

「対戦相手として戦っていた時も結構ガツガツ来ていましたし、チームメイトになってからの練習中でも結構(激しく)来ていた印象です。森保さんは練習だから強く行かないとかは絶対にあり得ない方。練習も試合も常に100%でやられる方です」

 引退後、指導者の道へ進んだ森保監督はコーチやヘッドコーチの下積みを経て広島でトップチームの指揮を執り、その後、東京五輪出場を目指す年代別代表と日本代表を兼任。栃木SCと浦和レッズのコーチやユース監督を歴任した上野氏は、2021年から日本代表のコーチに就任し、森保監督と再会することになった。

「森保さんはすごく人思いな方。選手のことは当然大事にしますけど、我々コーチングスタッフのこともすごく大事にしてくれました。現役時代も、指導者になられてからも、人を大切にする、人のことを考えるというところは変わっていないんじゃないかなと思います」

 2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)まで約2年間、コーチの1人として森保監督を陰ながら支えた上野氏。印象深い出来事の1つに、代表活動で必ず1回は目にしてきた、森保監督の“没頭モード”を挙げる。

「森保さんは選手はもちろん、代表に関わるすべてのスタッフに対しての気遣いが凄い方です。そのなかで、スタッフの夜の仕事はすごく遅くなる。なぜなら練習が大体17時からスタートして19時過ぎに終わって、夕食が20時。選手がいなくなって、21時、22時くらいからスタッフが集まり出して仕事をする。そのなかで森保さんはスタッフにも早く部屋に上がって休んでもらいたいということで、大体24時ぐらいに『みんなも部屋に戻ってくれ』という形で自分が一番先に上がるんですよね。

 ただ、ふいにスイッチが入る時があって、森保さんがスイッチが入った時は我々もさすがに帰れない(笑)。そういう日は、一緒に仕事をしていて、森保さんの本質というか、『絶対に負けたくない』『何がなんでも対戦相手に向かっていく』という強い思いを垣間見た瞬間かなと思います。真夜中の仕事のスイッチは代表活動で毎回1回はあります(笑)。

 守備の話で、『これどうやったらハマるかな』みたいなのが夜1時とかに始まって、『今からか』みたいな(笑)。もちろん、もうだいたいの戦術は決まっていて、『しっかり中を固めて、ボールを外に流していきましょう』『最初は中を閉めてしっかり4-4-2のブロックを作ってやっていきましょう』という最後のオチは決まっているんですけど、相手のハメ方を『ここに来たらこうだよな』『最後はマンツーマンだよな』と、コーチングスタッフと永遠に話しています(笑)」

涙する三笘薫を抱きしめた森保監督の姿【写真:Getty Images】
涙する三笘薫を抱きしめた森保監督の姿【写真:Getty Images】

常に人のことを立て、人のことを考える振る舞いは「好かれて当然」

 森保監督率いる日本代表は、カタールW杯のグループリーグでドイツ代表、スペイン代表と大会優勝経験を持つ強豪国を破り、ベスト16の結果を残した。

 上野氏は、「僕がセットプレーの担当をしてたので、(決勝トーナメント1回戦でクロアチア代表に)PKで負けたというところはPK戦の準備が少し足りなかったかもしれないと考えています。もちろんPKの練習はしましたが、もう少しPK合戦に対して準備が必要だったかなと。僕自身、反省する部分でもあり、次につなげてほしいという話は森保さんともしました。具体的には、キッカーを選手たちの挙手制にするのか、こちら(監督・コーチらスタッフ)が決めていくのかも含めて、次のグループにつないでいってほしいと思っています」と話す。

 クロアチア戦のPKキッカーが選手の挙手制だったことに対しては、さまざまな意見が上がった。森保監督は帰国会見で「PKを蹴ってくれた選手に関しては、本当に勇気ある決断をしてくれたと思っている。口から心臓が飛び出るくらい、緊張とプレッシャーのなか、日本のために戦ってくれた勇気を称えたい」と、キッカーを担った選手へ感謝。また、続投決定後の2023年2月には、「(失敗した選手が)自分を責めてしまい心を傷つけるので、今後は自分が決めたい」と挙手制から指名制に変更する方針を示唆した。実に森保監督らしい、と上野氏も頷く。

「森保さんは仕事に関して、コーチングスタッフといろいろ話し合って決めていくのがスタイル。『最終責任は全部自分が取るから、コーチングスタッフは思いっきり意見して、対話して、物事を進めてほしい』とずっと言われ続けていました。本当に信頼してもらっていたし、最後は自分の責任だってことを常々おっしゃってたので、本当に仕事がしやすかったです。(PK戦の挙手制については)選手に責任を負わせてしまったかなというところから、森保さんもおそらく次のことを考えられていると思います。繰り返しになりますけど、本当に人思いな方。特別面白いエピソードとかはないんですけど、大体行き着くところが人への優しさにつながってくるんです」

 自身も今年から岐阜の監督となり、上野氏は「自分が実際に監督になって見て、森保さんの苦労がよく分かりました」と笑顔を見せた。

「森保さんはみんなから好かれるというか、好かれるのが当然という振る舞いを常にしている。自分が前に出ることはほとんどなくて、人を立てて、人のことを考えている。それに尽きます。森保さんは森保さんだなと(笑)」

 その器の大きさと人柄が、森保監督が多くの人々や選手から愛され、信頼されるベースとなっているのは間違いないだろう。

[プロフィール]
上野優作(うえの・ゆうさく)/1973年11月1日生まれ、栃木県出身。福岡―広島―京都―新潟―広島―栃木。J1通算223試合27得点、J2通算83試合23得点。現役時代は大型FWとして活躍し、2010年から指導者の道へ。栃木でコーチ、ヘッドコーチ、アカデミーダイレクター兼ユース監督、浦和ではユースコーチ、育成ダイレクター兼ユース監督、トップチームヘッドコーチ、日本代表コーチを経て、今年から岐阜の監督を務める。

(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)



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