33歳大迫勇也、「タイトル総なめ」でついに代表復帰? 肝となるリーグ終盤戦…森保監督の信頼を取り戻せるか【コラム】

神戸の大迫勇也【写真:井上智博】
神戸の大迫勇也【写真:井上智博】

ゴール量産の神戸FW大迫勇也、プロキャリア最多に並び漂う自信と風格

 2023年J1リーグも残り10試合を切り、注目される優勝争い。8月26日の第25節では、首位の横浜F・マリノスがJ1残留危機の横浜FCに1-4というまさかの大敗を喫した。2位・ヴィッセル神戸もFC東京相手に2-2のドローに持ち込むのが精一杯で、3位・名古屋グランパスもセレッソ大阪に苦杯。上位陣が揃って勝ち点を取りこぼし、今後の動向がより一層、混沌としてきたのは間違いない。

 1つの鍵を握るのが、絶対的得点源の存在だろう。横浜FMには目下17ゴールを挙げているアンデルソン・ロペスがいるし、神戸にも19得点をマークする絶対的エース・大迫勇也が君臨する。彼らは11得点のキャスパー・ユンカー(名古屋)よりここ一番の決め手があるだけに、横浜FMと神戸がやや有利と見る向きもある。両エースがどこまで数字を伸ばせるかいかんで、タイトルの行方は大きく変わってくるのではないか。

 特に注目されるのが大迫だ。彼は直近10試合で8ゴールというハイペースで得点を重ねている。8月の3点を見ても、12日の川崎フロンターレ戦は見る者を驚かせる直接フリーキック(FK)、19日の柏レイソル戦は初瀬亮のFKに合わせたヘディングシュート、FC東京戦はGKの間合いを見事に外したPK弾だった。左右両足も含めて、今の大迫は「どこからでも点を取れる」という確固たる自信と風格を感じさせるのだ。

 2009年からの15年間のプロキャリアの中で最多ゴールは鹿島アントラーズ時代の2013年の19点。今季はすでにその数字に並んでおり、20点の大台も時間の問題だ。

大迫の起用法にも注目、怪我防止をしながら強力な駒を最大限有効活用

 33歳の円熟味を増す点取り屋がどこまでゴール数を伸ばすのか。そこは神戸の吉田孝行監督にとっても非常に大きなポイント。指揮官は、これまで何度か繰り返してきた太ももの負傷を再発させないように出場時間を調整しつつ、大迫という駒を最大限有効活用して、チームの勝利につなげようと仕向けている。

 そういった起用法を日本代表の森保一監督も慎重に見極めているはず。そもそもご存じのとおり、2018年秋に第1次森保ジャパンが発足した時点では、大迫は看板FWとして君臨していた。2019年アジアカップ(UAE)で彼が怪我をするとチームは苦戦を強いられるなど、「大迫頼み」が顕著だった。

 その傾向は2021年9月にスタートした2022年カタール・ワールドカップ(W杯)最終予選途中まで続いたが、2022年に入って大迫が負傷離脱を繰り返すようになると、指揮官も考え方を変えざるを得なくなる。

 1トップには秘蔵っ子・浅野拓磨(ボーフム)を重用し、本大会切符獲得後には浅野や前田大然(セルティック)といった前線からのハードワークができる人材を重視。ドイツ、スペインと同組になったことから、ボール支配される前提でリアクションスタイルを突き詰めていったのだ。

 そういった流れから大迫は本大会で選外になり、日本はW杯優勝経験のある2つの大国から歴史的勝利を挙げたわけだが、本人は代表復帰を諦めたわけではない。2026年北中米W杯の時には36歳になるが、フランス代表のオリビエ・ジルー(ミラン)やポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)がその年齢で大舞台に立ったわけだから、決して不可能とは言い切れない。

9月の代表戦は欧州組重視の選考が濃厚、大迫が宿敵・ドイツに挑む姿は見られないか

 問題なのは、森保監督が選ぶかどうかだ。

 少なくとも、9月のドイツ代表(ヴォルフスブルク)・トルコ代表(ゲンク)と2連戦のメンバー入りは見送るだろう。というのも、欧州組を時差・移動負担なく呼べる機会だけに、まずは欧州組重視の選考を考えるからだ。

 浅野、前田はコンスタントに試合に出ているし、6月シリーズで復帰した古橋亨梧(セルティック)も昨季ほどではないにしてもまずまず活躍している。それ以外にもフェイエノールトへ移籍した上田綺世は少しずつ出場機会を増やしているし、同じく今夏移籍組の小川航基(ナイメヘン)と町野修斗(ホルシュタイン・キール)もゴールを重ねている。

 加えて言うと、第2次森保ジャパン発足後は選外になっていた南野拓実(ASモナコ)も絶好調だ。最近のモナコでの一挙手一投足を見ていると、彼を1トップで使う手もある。となれば、あえて今、大迫を招集する必要はないと見るのが妥当ではないか。

 33歳のFWには、コンディションという大きな懸念材料もある。彼がカタールW杯を逃したのは、そもそも怪我を繰り返したことが発端。仮に昨年も今年のようなパフォーマンスを見せられていたら、代表落選はなかっただろう。そういう経緯があるため、代表とクラブを掛け持ちさせるのはかなり慎重にならざるを得ない。今、強行招集すれば、神戸にとっては大ダメージだし、そんな無理をさせるのは得策とは言えない。やはり大迫が宿敵・ドイツに挑む姿は見られないだろう。

大迫の代表復帰、現実的なタイミングは?

 ならば、代表復帰のタイミングはいつなのか。現実的に考えると、やはり来年1~2月の2024年アジアカップ(カタール)ではないか。今季1シーズンを怪我なしで乗り切り、MVP・J1得点王・神戸のリーグ制覇とタイトルを総なめにすれば、大迫は森保監督の信頼を取り戻すだろうし、再招集への下地ができる。絶対にアジア王者の座を手中にしたい指揮官にしてみれば、勝てるメンバーがほしいはず。大迫が目指すべきなのはこの舞台なのだ。

 そこでも選外となると、代表復帰はかなり遠のいてしまいかねない。2026年W杯の直前に大爆発していたとしても、やはり年齢やコンディション、ほかのメンバーとの連係面などを考慮され、外される可能性は否定できない。カタールでの悔しさを晴らしたいと願うなら、とにかく大迫が今季J1でフル稼働して、コンスタントに結果を出し続けるしかない。

 33歳の点取り屋は高いハードルを越えられるのか。そこに注目しながら、ここからのシーズン終盤戦を見極めたい。

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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