J1リーグ夏の補強「得したクラブ&損したクラブ」考察 下位チームがエース級流出で戦力ダウンも…【コラム】

今夏の移籍市場で得したクラブと損したクラブとは?【写真:徳原隆元 & Getty Images】
今夏の移籍市場で得したクラブと損したクラブとは?【写真:徳原隆元 & Getty Images】

例年以上に活発だったJ1移籍マーケット、イン&アウトを整理しその成否を精査

 8月18日にJリーグの第2登録期間(ウインドー)がリミットを迎え、今季の最終スカッドが出揃った。主力クラスの動きが相次ぐなど例年以上に活発だった移籍マーケットで上手く立ち回ったのはどのクラブか。今夏のイン&アウトを整理し、その成否を精査していく。

 目に見える成果を表しているのはサンフレッチェ広島だ。まず、補強ポイントだったFWのポジションに、セレッソ大阪からFW加藤陸次樹を迎え入れた。広島のアカデミーで育ち、ツエーゲン金沢、C大阪で結果を出してきたストライカーを復帰させ、得点力不足解消への一手を打っている。

 一方で10番を背負うMF森島司が名古屋グランパスへ流出したものの、すぐさま横浜F・マリノスからFWマルコス・ジュニオールを補った。2019年に得点王に輝いたブラジル出身のアタッカーは近年、出番が減少していたものの、そのスキルに疑いはない。技術と献身性を兼ね備え、ハイプレスを求めるミヒャエル・スキッベ監督の戦術にも適応できるタレントだ。

 加藤は加入2戦目となった浦和レッズ戦(第23節/2-1)で同点ゴールを奪い、マルコス・ジュニオールは初陣の川崎フロンターレ戦(第24節/3-2)で1ゴール1アシストの活躍を披露し、勝利の立役者となった。停滞感の漂っていた広島に再び勢いをもたらすファクターとなっており、即効性の高い補強策を実現したと言えるだろう。

 FC東京も積極的に動いた。課題の右サイドバックに京都サンガS.C.からDF白井康介を獲得し、MF安部柊斗(→RWDモレンベーク)の抜けたボランチにはC大阪からMF原川力を補強。ブラジル人の新助っ人としてMFジャジャ・シルバも迎え入れ、現状は10位にとどまるものの、広島と同様に上位追撃の体制を整えている。

 MF中島翔哉とFW安部裕葵を獲得した浦和も攻撃的なタレントが不足するなかで、ウイークポイントを上手く補った印象だ。とりわけ前者への期待度は高いだろう。独力で守備網を切り裂ける突破力がマチェイ・スコルジャ監督の求めるスタイルの中でも生かされれば、浦和の攻撃に新たなエッセンスが加わることになる。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)を見越しても、大きな補強となるはずだ。

 FW町野修斗(ホルシュタイン・キール)が抜けた湘南は、J2清水エスパルスからFWディサロ燦シルヴァーノを獲得。また中盤にはMF田中聡がベルギー1部コルトレイクから復帰し、最終ラインには鹿島アントラーズからDFキム・ミンテを補った。残留争いに身を置くなかでエースの離脱は痛手ながら、各ポジションを見渡せば、プラス査定を与えてもいいだろう。

 同じく下位に沈む柏レイソルは浦和からDF犬飼智也を獲得した。経験豊富なセンターバックの加入後、1勝2分の負けなしとしており、その効果が速やかに表れている。残留争いが佳境を迎えるシーズン終盤になれば、さらにその存在感は高まるはずだ。

マテウス流出の名古屋は森島を獲得も…

 話題性という意味では、川崎に加わったFWバフェティンビ・ゴミスがナンバー1だろう。元フランス代表の強靭なストライカーは、各国リーグで結果を残してきたように実績は十分。38歳という年齢が気掛かりで未知数な部分も大きいが、上手くはまればセンターフォワードを固定できず、得点減に陥った川崎に新たな活力をもたらす存在となれるだろう。

 評価が分かれるのは名古屋か。10番を背負うMFマテウス・カストロがサウジアラビアへ移籍。代わって広島から森島を引き抜いたが、個の力で局面を打開できるブラジル人アタッカーは、これまでにもその左足で多くの勝利をもたらしてきているだけに、単なる1人の戦力の流出と捉え切れない。もっとも、キープ力とパスワークに優れる森島が組織性を高める可能性もある。FWキャスパー・ユンカーやFW永井謙佑、オランダ1部ユトレヒトから今夏に復帰したFW前田直輝らを上手く操ることができれば、属人的だった名古屋の攻撃に新たな可能性をもたらすかもしれない。

 一方で戦力ダウンが否めないチームもある。MF金子拓郎がクロアチア1部ディナモ・ザグレブへ移籍した北海道コンサドーレ札幌はその1つだろう。8得点4アシストと大車輪の活躍を見せていたドリブラーの離脱は、大きな痛手のはずだ。足技に優れ、戦術にフィットし得るGK高木駿をJ2大分トリニータから獲得したとはいえ、金子の穴を埋める補強はないだけに、攻撃の勢いが減退する可能性はあるだろう。

 FW伊藤涼太郎(→シント=トロイデン)が抜けたアルビレックス新潟、FW小川航基(→NECナイメヘン)がいなくなった横浜FCにも同じことが言えるかもしれない。いずれも海外クラブへとエース級が流出し、それに代わるタレントを補えてはいない。

 売り手市場となりつつあるJリーグでは、来年以降も同様のことが起こり得るだろう。シーズン途中の海外移籍に対するリスクマネジメントは、今や各クラブに求められる重要なテーマとなっている。

 もちろん、補強の成否はすぐに表れるものではない。大金を積んで迎え入れたにもかかわらず、鳴かず飛ばずに終わることは珍しくなく、意外な選手のブレイクも稀有な話ではないため、イン&アウトだけで推し測ることはできず、シーズン終了後に改めて精査が必要となる。

 それでも今夏に籍を移した選手たちには、現状を変えてくれるはずだというファンの大きな期待が懸かる。彼らが新天地にいかなる影響を与えられるのか。残り10試合、そのパフォーマンスに注目したい。

(原山裕平 / Yuhei Harayama)



page 1/1

原山裕平

はらやま・ゆうへい/1976年生まれ、静岡県出身。編集プロダクションを経て、2002年から『週刊サッカーダイジェスト』編集部に所属し、セレッソ大阪、浦和レッズ、サンフレッチェ広島、日本代表などを担当。2015年よりフリーランスに転身。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング