なでしこジャパンのW杯快進撃、どう評価すべきか? 8強敗退の現実と「世界称賛サッカー」に込められた意味【コラム】
ラウンド16までの4試合で圧倒的強さも8強スウェーデン戦で無念の敗戦
なでしこジャパンは女子ワールドカップ(W杯)準々決勝でスウェーデンに1-2で敗れて、大会を終えた。ラウンド16までの4試合は見事な戦いぶりで、ニュージーランドの地元ファンや海外メディアからも絶賛されたが、FIFAランキング3位のスウェーデンを上回ることはできなかった。
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「前半、試合に入ってから中盤の選手を捕まえるところのズレを使われたり、我々がプレッシャーをかけたところで長いボールに前線の選手が走ってきたり。我々を困らせる攻撃に対して、少し時間がかかった」
池田太監督はスウェーデンを相手に5-4-1のブロックをベースとした守備がはまらずに、前半ほとんど押し込まれた理由をそう振り返った。実際にスウェーデンは日本をよく研究しており、大会5得点のMF宮澤ひなたなど、日本のアタッカー陣が一発で裏を狙う動きを警戒しながら、中盤のMF長野風花やMF長谷川唯にプレッシャーをかけて、攻撃をボールの奪いどころに誘導した。
そこから右サイドで組み立て、左からシンプルに仕掛け、必要に応じてロングボールも織り交ぜるなど、スウェーデンの守備と攻撃になでしこジャパンは翻弄されて、これまでの4試合にはない後手の守備が増えた。それでも前半セットプレーの流れからの1失点で済んだのは、まさしくゴール前で身体を張るDF熊谷紗希とGK山下杏也加の踏ん張りだった。
ここまでは2年前の東京五輪で、高倉麻子前監督に率いられたチームが、同じく準々決勝でスウェーデンに1-3で敗れた時と、状況はさして変わらない。具体的には当時のチームが非常にポゼッション志向の強いチームであり、そこを上手く封じられて裏返しの攻撃でディフェンスを崩されたのに対し、今回はボールを高い位置で奪って素早く裏を狙う形を全く出させてもらえなかったことだ。
これまでの戦いぶりを分析してきたスウェーデンは日本を“強者”と認めたうえで、東京五輪で日本に抱いたイメージを一旦捨てて、徹底的に対策してきた。スウェーデンのペーター・イエルハルドソン監督は「ゲームプランを100%実行できたとは思っていないが、ボールの管理、ポジションも良かった。選手は1人1人が役割を果たしてくれた」と振り返った。
戦術的、組織的に上手くハマる形で、相手からゲームの主導権を握る展開になれば、なでしこジャパンはシングルランキングの強豪とも十分に渡り合える。スペイン戦はポゼッションこそ20%台だったが、主導権は日本側が握っていた。しかし、このスペイン戦のようにそこでアドバンテージを取れない時に、個のウィークポイントが晒されやすくなる。
失望感しかなかった2019年の前回大会&東京五輪に比べれば評価できる内容に
スウェーデン戦では後半の立ち上がりに2失点目を喫すると、65分間はほぼ何もやらせてもらえなかったゲームだが、後半頭から左サイドに投入されたMF遠藤純に加えて、前線への裏抜けの得意なFW植木理子を投入。スウェーデンの体力的な疲労も相まって、日本の攻勢が強まった。そこにエネルギッシュなボランチのMF林穂之香と「彼女の推進力とパワーに期待して」(池田監督)突破力のあるMF清家貴子を入れた。
そこから植木のPK失敗がありながらも終盤に林のゴールで1点を返して、なお同点の可能性があるところまで行ったことは未来につながるが、ラウンド16で120分を戦い抜き、2連覇中だったアメリカを突破してきた中4日のスウェーデンに中5日の日本が押し切れなかった現実を受け入れて、それでも前を向いていく必要がある。
今回はノルウェー戦までの4試合で14得点1失点という16強の中でも最も良い成績で、改めて優勝候補に推す声が強まったり、2011年の世界一との比較が話題になることも増えていた。長谷川や熊谷キャプテンは過去の再現ではなく、今のなでしこジャパンでてっぺんを目指すということを開幕前から強調していたが、世間の流れは仕方ない部分もある。
それでも、ほとんど失望感しかなかった2019年の前回大会や2年前の東京五輪からチームジャパンとして池田監督が“ヤングなでしこ”ことU-20代表と兼任しながら、ここまでチームを仕上げ、チームを世界で戦うための軌道に乗せたことは評価できる。元代表MFの宮本ともみコーチをはじめ分析スタッフ、フィジカル&メディカル、”サムライブルーの料理人”としても知られる西芳照シェフも帯同して全力バックアップ。国際線から現地での移動まで、全行程にチャーター機が用意されるなど、あらゆる面で過去最高の体制だった。
2011年のなでしこジャパンは確かに素晴らしいチームだったが、当時からの強豪国も含めて、女子サッカーにそこまで本腰を入れていなかった。しかし、この10数年で世界の女子サッカーが進化、変容してきており、欧州の主要リーグも整備されてきた。そして女子W杯においても、大金が動くようになった。女子サッカーの最高峰といえばオリンピックだった時期もあるが、今では女子W杯が観客動員や賞金規模も含めて、最大の大会になってきている。
そうしたなかで日本も女子サッカーの競技人口こそ2011年から大きく増えてはいないが、女子選手のプレー環境の改善やアンダーカテゴリーの代表強化など、中身は大きく変わってきている。それでも世界の成長速度が驚くべきものであり、戦術的にも進化している。さらに出場国が32か国に増えた今大会ではコロンビアがベスト8に躍進、ジャマイカやモロッコ、南アフリカが初のノックアウトステージに進出するなど、女子サッカーの新たな風を印象付ける躍進もあった。
ニュージーランドの会場ではどの国よりも“ジャパン”を応援する声が…
ベスト8という結果は筆者が大会前に予想していたものと同じだが、正直、ここまでなでしこジャパンが世界から称賛されて、ニュージーランドの会場で、他国のサッカーファンが日の丸を掲げたり、身に付けて、どの国よりも“ジャパン”を応援する声が、スタジアムに響き渡るとは想像もしていなかった。そういう意味ではベスト8という結果だけでは計り知れない価値が、今大会のなでしこジャパンにはあったように思う。世界に認められたのだ。
されどベスト8はベスト8である。準決勝に残れば、そこでまたファイナルを目指した戦いがあり、仮に敗れても3位決定戦で7試合を戦うことができる。その権利を勝ち取ることができなかった。スウェーデン戦も勝機がゼロだったわけではないが、実力者は明白だ。そこをPKの成功失敗、監督の選手起用や交代のタイミングなどで埋められたかもしれないという“タラレバ”を語り出したら尽きないが、イエルハルドソン監督が認めるように、スウェーデンとて完璧にゲームを運べたわけではない。
19歳で日本人の女子選手として最年少のW杯ゴールを記録した藤野あおばも、ここから先に向けて、すべてにおいてスケールアップしなければいけないことを主張していた。なでしこジャパンの名前が世界に響いた3週間は紛れもなく、素晴らしい時間だった。しかし、2011年の再現ではない、世界の頂を目指す挑戦は今回出場した選手たちが肌で感じた指標を糧に、今回はメンバーに入れなかった選手たち、そしてトレーニングパートナーとして参加した18歳のMF谷川萌々子など、ここからA代表を目指していく若い選手たちを含めて、来年のパリ五輪、そして4年後の女子W杯へとシフトしていく。
その4年サイクルが、本大会だけでなく、そこに至るプロセスからより注目されて、期待されていく流れになることを願いながら、現場目線でなでしこジャパンのチャレンジを見届けていきたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。