プレミア移籍噂から一転…古橋亨梧はなぜセルティックと契約延長? 背景に見える“4つの理由”【現地発コラム】

セルティックと契約延長した古橋享吾【写真:ロイター】
セルティックと契約延長した古橋享吾【写真:ロイター】

伝統と実績を誇るクラブで英雄となった古橋

 日本代表FW古橋亨梧とスコットランド1部セルティックとの新契約が7月4日、ついに発表された。クラブ公式サイト上で古橋は、「さらに4年もこの素晴らしいクラブでプレーできることになり非常に嬉しい」と喜びを語っている。

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 古橋と言えば、アンジェ・ポステコグルー監督が今夏にイングランド1部トッテナムの指揮官に就任したことで、“恩師”を追うように同クラブへ移籍するのではないかと噂になった。日本での期待も相当に高かったと聞く。

 ところが、選んだ道はセルティック残留。先述のコメントからは「セルティックに骨を埋める」という決意さえ感じ取れる。今回はそんな古橋の契約延長について、考えられる“4つの理由”を考察してみたいと思う。

 まず、決め手の1つになったのは古橋が昨シーズンに残した成績だろう。公式戦50試合で34ゴール。1シーズンで30ゴール超えというの数字は本当に立派だ。FWとして超一流の証である。しかも、国内三冠を達成したなかでの34ゴール。この成績と存在感は、クラブのレジェンドとして間違いなく将来に語り継がれるだろう。

 また、スコットランドリーグのレベルを疑問視する声が多く上がったとしても、セルティックは欧州内で伝統と実績を誇るビッグクラブの1つだ。1966-67シーズンには、UEFAチャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)に国内3つのタイトルを併せた四冠という偉業を達成している。また、本拠地「セルティッ・クパーク」は6万人を超えるキャパの欧州でも屈指のスタジアムだ。

 古橋は、そんな歴史と伝統、さらに象徴的なスタジアムまで有するセルティックでレジェンドとなる成績を収めて絶対的なレギュラーとなった。しかも、クラブは来季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権も確保している。自身を取り巻くポジティブな状況と環境が古橋の背中を押して新契約にサインをさせたはずだ。

セルティックでの活躍と代表招集

 第2の理由は、6月シリーズでの日本代表招集だろう。周知の通り、古橋は昨年のカタール・ワールドカップ(W杯)のメンバーから落選している。ただ、「(落選は)悔しかったので結果で見せつけようと思った」と語っていた古橋は、落選の悔しさを最終的に公式戦50試合34ゴールという成績に結び付けた。

 欧州でここまでの成績を残したら、日本代表の森保一監督も古橋をシーズン終了直後に行われたキリンチャレンジカップ2試合に招集しないわけにはいかなくなった。

 そして、6月15日のエルサルバドル戦では後半20分から途中出場しヘディングで1ゴール、同20日のペルー戦はノーゴールに終わるも後半16分に前田大然と交代するまでスコットランド得点王らしい危険な動き出しを何度も見せた

 もちろん、今回の6月シリーズ2試合で古橋が日本代表におけるレギュラーの座を確固たるものにしたわけでない。とはいえ、セルティックの大黒柱として活躍することが母国代表の招集につながると本人は自信を深めたはずだ。

 それにW杯落選の悔しさ繰り返したくないのであれば、移籍による不安材料は排しておきたい。新チームに移り出場時間の確保が難しくなれば、代表招集も当然厳しくなる。

セルティックを知る名将の帰還

 ブレンダン・ロジャーズ監督の就任も新契約締結の一因となったはずだ。

 北アイルランド出身のロジャーズ監督は、英国人としては珍しく頭脳派の戦略家として知られる指揮官だ。英国にいち早くスペイン1部FCバルセロナを彷彿とさせるショートパス主体のポゼッションサッカーを持ち込み、2010年に37歳の若さで監督に就任したスウォンジー・シティをウェールズのクラブとして初めてプレミアリーグに昇格させた。そして2011-12年シーズン、英2部チャンピオンシップを席巻した攻撃的なスタイルを貫き、初のイングランド一部リーグ挑戦で11位の順位を勝ち取ると、このシーズン終了直後に名門リバプールに招聘された。

 リバプールでは2013-14シーズンにマンチェスター・シティとデッドヒートの末に2位という結果を残すも、大黒柱のエースFWルイス・スアレスをバルセロナ移籍で失った2015-16シーズンは大苦戦。リーグ開幕から8試合を終えた時点で10位(3勝2分3敗)となり、解任が発表された。

 とはいえ、この時でロジャーズ監督はまだ41歳。監督としての実力と手腕が本物であったことは、その後にセルティックで達成した2シーズン連続の国内三冠とレスター・シティでのFAカップ優勝という実績が証明している。

 たしかにレスター監督就任の際にセルティックとの契約を反故にした印象は否めないが、実績に関してはポステコグルー監督より上だろう。何より、まだ50歳で監督としては働き盛りの年齢。「一緒に働いてみたい」と思うのは古橋だけに限らないはずだ。

 実際、古橋は新契約を締結したあとに「ブレンダンと一緒に仕事を始められることを非常に楽しみにしている。彼はトップレベルの監督であるうえに、勝つことが重要なこのクラブをよく知る人物。チームメイトも一緒にやることを本当に楽しみにしている」と発言している。

 一方のロジャーズ監督も古橋の契約延長に対し、「クラブにとってブ素晴らしいニュース。我々にとってキョウゴは重要な選手。彼が新契約を結んで本当に嬉しい」とコメント。すでに相思相愛の関係を築き始めている。こうした2人のコメントから察するに、ロジャーズ監督は早くから古橋に来季の構想を語り、その信頼が契約延長の一助となったのだろう。

 筆者は何度かロジャーズ監督を取材し、言葉を交わす機会に恵まれた。その都度感じたのは、強烈な人間的魅力と自分の考えを的確に伝える“言語力”の素晴らしさだ。

 岡崎慎司がレスターを退団する直前、地元記者数名で行った監督との座談会でのやり取りを紹介したい。2019年2月26日にレスター指揮官に就任したロジャーズ監督。座談会を行ったのは就任から2か月余りというタイミングで日が浅かったものの、チームは早くも“ロジャーズ・イズム”を吸収しているように見えた。そこで「チームはすでにあなたのスタイルでプレーしているように見えるが?」と質問すると、「まだフィットネスに不満がある」と前置きしつつ、「自分のスタイルを具現化させることは一番自信のあるところなんだ」と力強く答えてくれたのが印象に残っている。

 この脂の乗った名将とサッカーをすることが、古橋を来期以降もスコットランドに留まらせることに一役買ったのは間違いないだろう。

心を震わせる魅力的なオファーは届かなかった模様

 最後の理由として考えられるのは、結局のところ古橋にセルティック残留を越える魅力的なオファーが届かなったことだろう。

 騒がれたトッテナムからの正式オファーはなし。おまけに、今夏の去就が注目されたイングランド代表FWハリー・ケインの移籍はダニエル・レヴィ会長の断固拒否しているため実現しそうにない。とすれば、古橋がトッテナムに移籍しても扱いはケインの控え。左サイドにはこれまた実績上位のソン・フンミンが腰を据えている。

 しかも、トッテナム移籍となればCL出場権の4位確保がノルマとなるため、フィニッシャーとして明確な数字が期待される。数字を残して当然。できなきゃ酷評。たしかにトッテナムで活躍すれば世界トップレベルに達したと言えなくもないが、代わりにプレッシャーは過酷だ。

 もちろん今後プレミアからのオファーがあった場合、選手として挑戦の道を選ぶ可能性は高い。年俸は上がるだろうし、世界最高峰のリーグでさらなる高みを目指したくなるのは選手として自然だ。

 しかし古橋が契約延長を決断した時点まで、28歳FWの心を震わせるようなオファーはどこからも届かなったようだ。

 以上4つの条件が揃って、古橋はセルティック残留を決意したと考える。しかしこうなったからには元スウェーデン代表FWヘンリク・ラーション氏のように、セルティックの不動の1トップとしてゴールを量産し続け、スコットランドのレベルを上げると同時に欧州CLでも存在感を発揮して、このクラブでワールドクラスの選手に成長してほしい。

 そして、中村俊輔氏に続きセルティックで日本人2人目となる真のクラブレジェンドとなって、代表でもゴールを決めまくる姿をぜひ見たいものである。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)



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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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