2026年W杯へのロードマップは完成済み? 森保監督に与えられた6月シリーズの“命題”

森保一監督は好調古橋亨梧を6月シリーズに招集【写真:ロイター & 徳原隆元】
森保一監督は好調古橋亨梧を6月シリーズに招集【写真:ロイター & 徳原隆元】

【識者コラム】古橋亨梧に関して問われた森保監督の苛立ちの意味は?

 珍しく森保一監督は苛立ちを見せた。

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 6月に行われるキリンチャレンジカップのエルサルバドル代表戦、ペルー代表戦に臨む日本代表メンバー発表会見の席のこと、報道陣から古橋亨梧の選出理由を聞かれた森保監督は答えた。

「そうですね、継続してチームの勝利に貢献する、結果と存在感のあるプレーをしているということで、招集させていただきました。以上です」

 笑顔で回答したが、森保監督がこんなに短く答えるのはあまりない。ワールドカップ(W杯)前からいろいろな報道陣に幾度となく古橋について聞かれて、もううんざりしているというのが見え隠れした。監督としてはこれまで何度も古橋にはチャンスを与えている、特に2022年のカタールW杯前の一番の強豪と戦ったブラジル戦でも起用したという思いがあるのだろう。

 これまで森保監督の招集メンバー選考には「理論」がある。それは例えばこんな感じだ。

・移籍直後の選手は招集しない。
・W杯予選、アジアカップでの初招集はない(例外あり)。
・初招集の選手は2〜4人(例外あり)。
・初招集の選手から1人以上は必ず起用する。

 それぞれの例外についても「理由」が見える。まずW杯予選で初招集があったのは、2022年のカタールW杯アジア最終予選、9月のホーム・オマーン戦(谷晃生)、11月のアウェー・ベトナム戦、アウェー・オマーン戦(三笘薫、旗手怜央)の2試合だ。

 第3GKを入れ替えても1、2試合なら影響は少ない。また、2021年は親善試合が組めなかったため、予選で即戦力になりそうな選手を試さざるを得なかった。さらに招集した3人とも、東京五輪のメンバーで、当時五輪監督を兼任していた森保監督としては特長を十分に知っている選手だったと言えるだろう。

 初招集の選手が多かったのは2019年と22年のE-1選手権、2019年のコパ・アメリカ(南米選手権)のメンバーだが、19年に関しては五輪メンバーを中心とした編成になったため、22年はW杯に向けて国内組の最後のテストという位置づけだったためだ。

 逆に初招集の選手が1人しかいなかった、あるいは誰もいなかった親善試合は2022年6月(伊藤洋輝のみ)、22年9月(初招集なし)だが、これはW杯に向けて最後の選抜テストという位置づけだったために入ってこなかったものだと思われる。

 もっともチームを率いて5年目になる森保監督でも、選手選考と戦術選択で予想外だったこともある。その直近の例は3月の親善試合2試合ではチーム若返りのために代表経験の浅い選手を多数入れるとともに、これまでよりもボールを支配したいというプレーの選択をしたことだ。

 3月28日、1-2の敗戦となったコロンビア戦の後に森保監督は記者会見でこう語っている。

「新たに戦術的なチャレンジをする立ち位置(ポジション)の部分で、チャレンジをするというところをやったことと、やはり選手が変わっていったなかで、スタートのこの段階から全てがスムーズに行くのはなかなか難しい」「新しい戦術のチャレンジと、新しい選手の融合という部分で、簡単ではないというところが出た」

新戦力がどう組み込まれていくのか注目だ【写真:徳原隆元】
新戦力がどう組み込まれていくのか注目だ【写真:徳原隆元】

2026年W杯へのロードマップは完成済み?

 ここで森保監督は「新しい戦術」「新しい(経験の少ない)選手」を同時に行ったことで難しかったと語っていた。ということは、次に試すのは、「従来の戦術」で「新しい選手」か、「新しい戦術」で「新しくない(経験のある)選手」のどちらかというのが通常の思考だろう。

 だが「従来の戦術」を理解できていない「新しい選手」はいないはずだ。初招集のメンバーを除けば、招集された選手はすべてW杯前に森保監督の説明を受けているのだ。代表の場に来てまた説明されなくてもいいだろうし、きちんとこなせる選手だけが呼ばれているはず。

 となると、よりポゼッションができる「新しい戦術」を「経験のある選手」に説明して、試合で試すというのが今回の試合の命題になるはずだ。実際、メンバー発表の会見の中で森保監督は「継続してポゼッションのところは、もちろんトライしていかなければいけない」と戦術面の幅を広げることを重視していたと語っている。

 選手の選び方を「活動ごとにどういう将来の戦略を持って選手を招集させていただいて、選手の成長、チームの成長、そして日本のサッカーの成長につなげていくか」と説明していることからも、2026年アメリカ・カナダ・メキシコW杯に向けたロードマップができ上がっていて、そこまでの道のりを進んでいこうとしているのが分かる。

 もっとも、だからと言って森保監督の考えをそのままなんでも受け入れるほうがいい、というのではない。今回の試合の位置づけを考慮しつつ、理論的な異論を唱えたり、試合後の検証作業をしたりすることは必要なのだ。

 そこで森保監督が記者会見で「誰かを推してということだけではなく、誰を外すかというところも準備して質問していただければ」と投げかけたことを踏まえて、2つほど異論を提示しておきたい。

「新しい戦術」を「経験のある選手」で試す、また、選手の平均年齢を上げないという観点で考えれば、3月の2試合で先発した菅原由勢に代わって山根視来で良かったのではないだろうか。またプレーメーカーである鎌田大地が負傷した時を想定して、ボール奪取に優れる川村拓夢に代えて、もう一列前の森島司はどうだったのだろうか。

 日本代表スタッフは何時間もかけて選手を1人ずつ吟味し、メンバーを選考しているという。当然ながらこの2人も検討され、そして今回は外されたことだろう。ただ、チーム外から選考の理論を推測しつつ見ていても、こうやって選考に異論は出てくる。

 また自分が監督になったつもりで「ああでもない、こうでもない」というのもサッカーの楽しみ方の1つ。口汚く相手を落としつつ自説を言うのは論外だが、そうでなくてもいろんな意見は出てくるものだ。ということで結論としては、「森保監督、いろいろ論は出てくるでしょうが、笑って聞いてくださいね」ということだ。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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