久保建英は「最も決定的な選手」…名将シメオネも認めた存在感 無効化対策を番記者が分析「危険と理解していた」【現地発コラム】

ソシエダでプレーする久保建英【写真:Getty Images】
ソシエダでプレーする久保建英【写真:Getty Images】

アトレティコ戦に先発出場した久保、現地メディアは辛口評価「檻に閉じ込められた」

 レアル・ソシエダMF久保建英は強豪アトレティコ・マドリード相手に目立った活躍はできなかったものの、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場が決まり喜びにあふれていた。

 勝てば10季ぶりのCL参加が決まる4位ソシエダは現地時間5月28日のラ・リーガ第37節で、勝利すれば来季のスペイン・スーパーカップ出場権を手にする3位アトレティコとアウェーで対戦。久保にとってエスタディオ・メトロポリターノは、マジョルカ時代の昨季、ラ・リーガで唯一得点を決めた思い出深い舞台であった。

 2試合連続の先発出場を果たした久保は、いつもどおり4-3-3の右ウイングでプレーしたが、アトレティコのディエゴ・シメオネ監督がシステムを普段の5-3-2から5-4-1に変更してきたことでスペースを消されてしまい、ドリブルを仕掛けても相手の厳しいチェックとファウルに遭い、苦戦を強いられた。

 チームも久保同様、シーズン後半戦、最も多くの勝ち点を獲得しているアトレティコに大いに苦しめられた。序盤こそボールをキープしたが、時間の経過とともに主導権を握られていき、アントワーヌ・グリーズマンに先制点を許して前半を枠内シュート0本で終了した。さらに後半に入り、久保が26分にピッチを去った直後、ナウエル・モリーナに追加点を奪われた。終盤にようやく反撃し、アレクサンドル・セルロートが一矢報いるも、同点に追い付くことはできずに1-2で敗れた。

 しかし、結果的にCL出場権争いのライバルである5位ビジャレアルがラージョ・バジェカーノに1-2で敗れたため、ソシエダの4位が確定。2012-13シーズン以来となる同大会参加の権利を得て、今季掲げていた目標を見事に達成して見せた。

 この一戦についてはチーム全体が良くなかったこともあり、スペインメディアは全体的に久保を厳し目に評価した。クラブの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」は、「久保はアトレティコに(マリオ)エルモソ、レギロン、コケ、(ヤニック)カラスコの最大4選手で檻に閉じ込められた。そして逃れようとするも、コンスタントにファウルを受け続けた。チームメイトのために身を粉にしてプレーしたことは評価できるが、攻撃ではほとんどその姿を見ることができなかった」と記し、チーム最低タイの2点(最高5点)をつけた。

 もう1つのクラブの地元紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」も、「アトレティコは久保を上手くコントロールし、交代するまで彼のサイドでチャンスを作らせなかった。それでも久保はいつもどおりトライした」として3点(最高10点)と低評価。そして「マルカ」紙は1点(最高3点)、「AS」紙は最低の0点(最高3点)をつけていた。

番記者が見た久保対策「2、3人が連係することで封じることができると分かっていた」

久保建英について語ったスペインラジオ局「オンダ・セロ」でアトレティコ番記者を務めるアレハンドロ・モリ・マルケス氏【写真:高橋智行】
久保建英について語ったスペインラジオ局「オンダ・セロ」でアトレティコ番記者を務めるアレハンドロ・モリ・マルケス氏【写真:高橋智行】

 スペインメディアの久保評価は厳しいものになったが、対戦相手の記者の目にはどのように映ったのだろうか。

 スペインのラジオ局「オンダ・セロ」でアトレティコの番記者を務めるアレハンドロ・モリ・マルケス氏が試合後に話してくれた。

 まず、「今季の久保は非常に素晴らしいシーズンを送ってきたスペクタクルな選手だと思う」とその実力を認めながらも、「今日は今季の中でもかなり良くないパフォーマンスだった」と出来の悪さを指摘した。

 その理由について、「でもそれは、シメオネがラ・レアルの中で久保が特に危険な選手だと理解し、スタメンを入れ替えて対策を施してきたからだ。久保を抑えるために(セルヒオ)レギロンを左ウイングバックに起用し、普段そのポジションでプレーする攻撃の中心の1人である(ヤニック)カラスコを左サイドハーフに配置してより自由を与えていた。シメオネはそのように布陣を変え、レギロンが(マリオ)エルモソやカラスコと手を組み2、3人が連係することで、久保を完璧に封じ込めることができると分かっていた」と説明し、シメオネがかなり久保を警戒していたことを訴えた。

 シメオネは試合後の監督会見で、システムを変更してFWを1枚減らし、左サイドに厚みを持たせたことについて、「ラ・レアルの素晴らしい攻撃の道筋をすべて塞ぐのが狙いだった。長期離脱していたレギロンがプレーするのは簡単ではなく最初は苦戦したが、時間が経つにつれ、ラ・レアルで最も決定的な選手である久保を無効化するという、我々が必要としていたことを見事にやり遂げてくれた」と、久保を封じ込めるための策だったことを明かしていた。

 一方、久保は試合後、アトレティコに上手く抑えられたことを指摘されると、「監督のプランどおりに動いただけだった。仕掛けようと思ったらもっと仕掛けることはできたけど、今日は前半0-0で、仕掛けなくていいっていうことだった。ボールを無理につながずに蹴るところは蹴り、しっかり守るというものだったので、自分勝手なプレーをしようと思ったらできた。調子がいいなかでも、チームのために頑張れて良かったと思う」と監督の指示に従ったことを強調していた。

ソシエダ戦が行われたアトレティコの本拠地エスタディオ・メトロポリターノ【写真:高橋智行】
ソシエダ戦が行われたアトレティコの本拠地エスタディオ・メトロポリターノ【写真:高橋智行】

久保の今季自己採点は「90点ぐらい」 確かな手応え「今季はすごく充実している」

 久保はCL出場権獲得の喜びを話した際、交代するまでビジャレアル戦の結果を知らなかったこと、ピッチに立っていた選手たちは最後まで何も聞かされていなかったため、セルロートが1点を返したあとも焦りがあったことを明かしている。

 そして一足早く今季の自己採点をしてもらい、「90点ぐらいは与えてもいいと思う。CLにも出られたし。個人として目標の数字まではいっていないが、ある程度点も取れたし、アシストもできたし、すごく嬉しい。今季はすごく充実している」とその出来に満足した様子だった。

 今季ここまでの久保のラ・リーガ成績は34試合(先発28試合)、2380分出場、9得点4アシスト。ポジション争いが非常に厳しいと見られていたなか、さまざまなポジションに即座に適応して監督の信頼を勝ち取り、大きな怪我をすることなくワールドカップ(W杯)が途中開催されるという異例のシーズンを戦い抜いてきた。まさに本人の言葉どおり、十分な結果の1年だったと言うことができるだろう。

「CL出場が目標」と常々話していた久保はこのあと、達成感と幸福感を抱えたまま、ラ・リーガ最終節セビージャ戦を自身の誕生日となる6月4日にホームで迎え、今季を締めくくる。

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高橋智行

たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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