浦和、奇跡を生む本拠地「埼スタ」のパワー ACL決勝の大一番、美しい光景に世界注目

2017年に埼玉スタジアムでアジア王者を掴み取った【写真:Getty Images】
2017年に埼玉スタジアムでアジア王者を掴み取った【写真:Getty Images】

【J番記者コラム】数々のドラマを巻き起こしてきた埼スタがACL決勝第2戦の舞台

 浦和レッズは5月6日にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝第2戦で、アル・ヒラル(サウジアラビア)と戦う。決戦の地・埼玉スタジアムでは、これまでにもアジアの舞台で数々のドラマを巻き起こしてきた。

 最初の伝説的な夜は浦和がACLに初出場した2007年だ。グループステージを突破し、準々決勝では全北現代(韓国)を撃破。迎えた準決勝は城南一和(韓国)との対戦だった。

 アウェーでの初戦を2-2で引き分けたチームはホームに戻ったが、1点先制するもまさかの連続失点で1-2に。ここで、当時の若き中盤のホープだったMF長谷部誠が浦和サポーターの陣取る北ゴール裏の目の前で同点ゴールを決め、延長戦に持ち込んだ。決着のつかなかったゲームはPK戦にもつれ込む。PK戦の使用ゴールが北側に決まると、スタジアムがざわついた。
 
 すると、南側のゴール裏スタンドで応援のために使用されていたビッグフラッグたちが、一気に反対サイドまで移動を始めたのだ。北ゴール裏スタンドでも、フラッグは中央に集結する。PK戦までの数分間の間にその移動を完了させると、相手のキックの際には大音量のブーイングとおびただしい数の旗が振られた。

 少しでも相手の集中力を乱すようにという願いを込めたゴール裏に応えるように、GK都築龍太が相手の2人目をストップ。浦和の選手が蹴る際にはピタリとすべての音も動きもなくなったスタジアムで4人目まで全員が決め、最後に登場したDF平川忠亮も冷静にシュートを蹴り込んで決勝まで進出した。

2017年はラファエル・シルバのゴールがきっかけで逆転勝利【写真:徳原隆元】
2017年はラファエル・シルバのゴールがきっかけで逆転勝利【写真:徳原隆元】

ホームの力なくしては成し遂げられなかった2017年のACL優勝

 2017年のACL優勝は、ホームの力なくしては成し遂げられないものだった。

 まずはラウンド16の済州ユナイテッド(韓国)戦は、初戦の敵地でチームが機能せずに0-2の敗戦。しかし、ホームに戻ると前半だけで2点を奪ってトータルスコアをタイに戻した。さらに後半には相手に退場者も出る中で延長戦へ。すると残り5分に差し掛かろうかというところで、MF高木俊幸のラストパスをDF森脇良太が蹴り込んで決勝ゴールになった。

 この延長戦の最中には済州の控え選手がピッチ上に乱入してMF阿部勇樹にエルボーを見舞って退場処分になる場面、試合後にヒートアップした済州の選手たちがDF槙野智章らの浦和の選手たちを追いかけ回す場面と普通ではない光景も広がったが、そのような精神状態に相手が陥ったのも、大歓声が上からピッチ上に降ってくるような埼玉スタジアムならではだろう。

 準々決勝では川崎フロンターレとの日本勢対決だったが、アウェーの初戦は1-3とまたも2点差負け。しかも、ホームでは先制点を許す最悪の展開でわずかながらの光明だったアウェーゴール差もなくなった。しかし、MF矢島慎也のアシストからFW興梠慎三が同点ゴールを奪い、さらに相手DF車屋紳太郎が退場になるとスタジアムの空気感は川崎から2点リードの余裕を奪った。

 後半に入るとFWズラタン、FWラファエル・シルバが連続ゴールでスコアを振り出しに戻すと、勢いは止まらなかった。最後は森脇のラストパスを高木が合わせると、ふわりと浮いたボールはそのままGKの頭上を越えてゴールへ。大歓声に包まれたホームスタジアムで浦和が奇跡の逆転劇を見せた試合だった。

さまざまなドラマと奇跡が生まれてきた埼玉スタジアム【写真:徳原隆元】
さまざまなドラマと奇跡が生まれてきた埼玉スタジアム【写真:徳原隆元】

浦和の選手たちを例外なく感動させ、相手に完全アウェーを認識させる埼スタの光景

 そして今大会は新型コロナウイルスの影響により、グループステージと東西両地区の決勝トーナメントはそれぞれ集中開催だった。その東地区決勝トーナメントは浦和のホーム埼玉スタジアムでの開催に。東南アジア勢を相手にラウンド16と準々決勝を突破した浦和は、全北現代との日韓対決に臨んだ。

 1-1の同点で延長戦に入った試合は、延長後半の残り4分でショートコーナーから失点してしまう。しかし、諦めることを許さないような声援の中で浦和は残り1分でDF酒井宏樹が強烈なスライディングタックルでボールを奪うと、そのまま攻撃参加してクロス。こぼれ球をFWキャスパー・ユンカーが蹴り込む劇的な同点ゴールで決着をPK戦に持ち越した。

 すると2007年の準決勝でのPK戦をリプレイ再生しているかのような光景がスタジアムに広がった。ビッグフラッグが一気に北ゴール裏に集結すると相手に強烈なプレッシャーをかける。それに応えるようにGK西川周作も2本セーブし、枠外の失敗も1本。最終的にはPK戦のスコア3-1で浦和がこの決戦に駒を進めた。

 試合の中身もさることながら2007年、17年ともにスタジアムに広がった光景はアジアサッカー連盟だけでなく世界中に発信された。一般的にコレオグラフィーと呼ばれるものだが、選手の視覚に訴えるサポートとして浦和サポーターは「ビジュアルサポート」と呼んで誇りを持つ。その作り込みの美しさは、埼玉スタジアムの中央部にあるトルシエ階段からピッチレベルに姿を現して試合に臨む浦和の選手たちを例外なく感動させ、そして相手にはここが完全アウェーであることを認識させる。

 ピリッとした、戦う空気感に包まれる埼玉スタジアムは、数々のドラマと奇跡を起こしてきた。昨季終了後に芝生の全面改修を伴うリニューアルを行うことが避けられなかったホームスタジアムで決勝を戦うため、さまざまな手も尽くした。2023年5月6日、浦和はこのホームスタジアムで3回目のアジアの頂点に立つトロフィーを掲げることができるか。クラブだけでなく、スタジアムの歴史にも新たに輝かしい1ページが刻まれることが期待される。

(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)



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