世界基準へ進化するJリーグの「球際」 優位性を生むスペシャリストの存在…頭一つ抜け出ているチームは?

Jリーグの球際での争いは徐々に進化【写真:徳原隆元】
Jリーグの球際での争いは徐々に進化【写真:徳原隆元】

【識者コラム】球際の戦いが少ない・弱い傾向にあったJリーグの強度は着実に向上

 バヒド・ハリルホジッチが日本代表監督だった時、よく「デュエル」を強調していた。Jリーグは球際の戦いが少ない、弱いという指摘だ。確かに当時のJリーグはヨーロッパのリーグ戦に比べると球際が少ない、弱いという傾向はあったと思う。しかし、ここ数年は、ずいぶんそれも変わってきた気がする。

 カタール・ワールドカップ(W杯)の日本代表も球際が弱いという印象はなく、むしろ強い部類ではないかと感じた。1対1のデュエルで圧倒的に優位だったわけではないが、少なくとも不利ではなかった。ヨーロッパで揉まれた代表選手が大半とはいえ、元はJリーグの選手たち。Jリーグの強度はかなり向上している。

 プロの試合はもともと「球際で負けない」が基本だ。ただ、「球際で負けるな」とはよく言われるが、「球際で勝て」とはあまり言わない。遠藤航(シュツットガルト)のようなブンデスリーガでデュエル・キングになるぐらいの選手は別として、「勝て」ではなく「負けるな」なのは、球際に必ず勝つのは偶発性もあるので難しいからだ。だから「負けるな」。

「球際に負けるな」とは、ボールと相手の両方を通過させるなということ。ボールを止めれば「勝ち」だが、それが難しければせめて身体は止めろ、平たく言うとファウルしてでも止めろという意味である。

 フィリップ・トルシエ監督に率いられた日本代表がパリでフランス代表と対戦して大敗した一戦がある。その時、地元の記者から「なぜ日本はテクニカル・ファウルをしないの?」と言われたものだ。ゴールから40メートルも離れた場所なら、基本的に全部ファウルで止めていい、「ジネディーヌ・ジダンにファウルもしないで止められるわけがないだろう」というのが彼らの認識だった。その時はヨーロッパで活躍している選手は中田英寿しかおらず、デュエルの意識がまだそれほど高くなかった。

球際を作らずにビルドアップできる横浜FM、川崎、新潟

 現在のJリーグは球際に強くなっている。それだけファウルも多い。球際になったらプレーが止まるので、スムーズにボールを運んでいくのが難しくなった。逆に、球際を作らずにビルドアップできるチームは頭一つ抜け出ている。横浜F・マリノス、川崎フロンターレはそうしたビルドアップができるチームだ。J2から昇格してきたアルビレックス新潟も球際を作らずに運べる構造を持っているようだ。

 ただ、最後までまったく球際にならずにシュートまで持っていくのもまた難しい。かつて「日本人は球際に弱い」と言われていた時代には、「いかに球際にしないか」をみんなが考えていた。その影響かどうかは分からないが、せっかくDFの隙間でパスを受けても、球際になりそうなだけでボールを下げてしまうプレーが頻発していた。現在でもその傾向はまだ残っているかもしれない。

 家長昭博(川崎)のように、むしろ球際にして、そこを制することで優位性を出していける選手もいる。球際のスペシャリストがいれば、球際を回避し続けるより攻撃はしやすいという典型例だろう。あからさまな接近戦にしないまでも、誰かとの戦いを意識して攻め込む必要はあり、その裏付けとして接近戦の強さ、ファウルにも負けない能力が問われる。

 球際で負けない→球際を回避できる→球際をいとわない。これが進化の過程だとすると、現在のJリーグは第2段階と第3段階の間ぐらいという感じだろうか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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