【W杯】フランスが欧州対決制して準決勝へ 使命から解放された選手たちの“安らぎ”の瞬間
【カメラマンの目】フランスの選手たちはスタンドに駆け寄り、童心に帰ったようにはしゃいだ
カタール・ワールドカップ(W杯)準々決勝イングランド代表対フランス代表。ヨーロッパの強豪として知られる両国の対戦は、優勝の行方を左右する重要な一番と考えられ、見ごたえのある試合展開が期待された。
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しかし、激しい攻防への期待とは裏腹に、実際は水面下での駆け引きを意識した内容で進んでいくことになる。試合は静かに始まっていったのだった。序盤のイングランドはまずはディフェンスラインでボールを回しながら相手の出方を伺うような構えを見せる。チャンスと判断すればサイドライン際にロングボールを供給したが、強引な切り崩しは行わず様子を見るようなプレーを続けた。
対するフランスも自陣へ楔を打ち込まれる場面には激しく潰しにいっていたが、攻撃面ではキリアン・ムバッペをはじめとしたドリブル突破を繰り出すことは少なかった。
しかし、スコアが動く。前半17分、オーレリアン・チュアメニが放ったミドルシュートは、イングランドGKジョーダン・ピックフォードの懸命のダイブも届かずゴールへと吸い込まれフランスが先制に成功する。
ここで失点を許したイングランドだったが、決して焦るようなことはしなかった。試合開始からの慎重にボールをキープしながらのパス回しでフランスの守備網を揺さぶり、穴が開く場所を探るサッカーに専念する。
イングランドはなぜリードを許しても、挽回へのモーションとなる攻撃を重視した作戦に切り替えなかったのか。それは“暴れ馬”フランスを余計に刺激して、活発化させても得策ではないと考えたのかもしれない。1点なら取り返す時間は十分にあり、何も焦ることはないというスタンスだったように見えた。
実際、落ち着き払うイングランドは、後半9分に得たPKをエースのハリー・ケインがゴール。同点とする。
しかし、この追撃の狼煙となった得点は、フランスが受け身から攻撃サッカーへと切り替わるスイッチとなってしまったのだから皮肉だ。レ・ブルー(フランス代表の愛称)は左のムバッペ、右のウスマン・デンベレを中心に両サイドの攻略に着手し出す。中央ではアントワーヌ・グリーズマンがゲームメーカーの役割を担い攻撃を牽引していった。
そして迎えた後半33分、グリーズマンのクロスにオリビエ・ジルーがヘッドで合わせ、迫るイングランドを突き放した。イングランドも失点直後の後半35分に再びPKを獲得したが、これを決められず結局フランスの勝利で幕を閉じたのだった。
両チームともまずは負けないサッカーを優先した結果、全体的におとなしい内容の試合となったが、それでも特筆すべきはムバッペの個人能力である。ひとたびボールを持てば腕を大きく振り、爆発的な突破力を持つ直線的な動きと、マーカーを翻弄するフェイントを加えたドリブルは、イングランドにとって脅威であった。大袈裟な表現だが、ピッチレベルでムバッペのドリブルを目の当たりにすると、そのフェイントの足さばきは、まるでナイフのようで芝を切り裂くのではと思えるほど鋭い。今後、対戦する国は何より、ムバッペ個人への対処方法を最優先に考える必要があるだろう。それほど彼の存在は圧倒的だ。
試合後、サポーターの声援に応えるべくスタンドに駆け寄ってきたフランスの選手たち。はしゃぐ選手たちは童心に帰ったようで実に微笑ましかった。純粋な笑顔は、国を背負って戦う使命から解放された男たちのひとときの安らぎだった。
(FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。