ハリルが目をつけた秘密兵器「加藤恒平」 ブルガリアで輝きを放つボランチの正体とは?

苦境、再起、降格、優勝、そして…

「人生で一番つらい時間でした。アルゼンチンで契約した4部のチームは当初、家、食事、給料を全て負担してくれる約束だったんです。だけど、ふたを開けると、全てなかった。クラブの会長は、『日本人なんかに金を払えるわけがない』とビザすら下ろしてくれなかったんです」

 だが、ピッチの外から試合を眺める日々のなかにも、収穫はあった。

「苦しい環境でしたが、これが世界だと痛感しました。特にロッカールームの空気は衝撃を受けましたね。生活が苦しいなかで、勝たなければ金をもらえない、家族を養えない、だから勝利への飢えが尋常ではなかった。その分、勝った時の喜びや、試合前の円陣には毎度シビれました」

 生きるために、たった1つの勝利にこだわること――。それを感じる環境に身を置いたことが加藤の中にハングリー精神を植えつけ、サッカー選手として日々戦い続け、より高みを目指していくことが目標となった。

 その後帰国すると、2012年にJ2リーグのFC町田ゼルビアへと加入したが、1年でJFLへの降格を味わうことに。失意のなかで加藤は、翌年モンテネグロ1部のFKルダル・プリェヴリャへの移籍を決断する。そして在籍2年目でリーグ制覇を達成。「優勝した瞬間も、町田で降格した瞬間も、自分はピッチに立っていた。どちらも自分にとっては同じくらいの財産」と、二つのクラブで過ごした苦闘の日々を振り返った。

 昨季はポーランド1部のTSポドベスキジェ・ビェルスコ=ビャワに加入し、シーズンを通じて主力としてプレー。そして今季、ブルガリアへと活躍の場を移し、渡欧して4年目で代表監督の目に留まり、名指しされるところにまで登り詰めた。一つの“サクセスストーリー”として、すでに成り立つような状況を迎えているが、加藤の心の中は喜びで満たされているわけではなかった。

 

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