寡黙な男が若手選手の指導にも尽力 現役引退の駒野友一が今治の4年間で残したもの
【J番記者コラム】「なんら変わらない」裏で駒野に引退を決断させた出来事
ヨーロッパをも驚かせた左脚の魔術師・中村俊輔、故・松田直樹の「3」を受け継いだ田中隼磨、隠れた名手として鳴らした二川孝広……。今年も日本代表経験者を含む多くの選手が現役を退くなか、職人サイドバック(SB)もスパイクを脱ぐ決断を下した。
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今季までJ3のFC今治でプレーした41歳のDF駒野友一がその人だ。日本代表としては2006年ドイツW杯、10年南アフリカW杯と2大会連続で出場するなど78試合に出場。00年にサンフレッチェ広島ユースからトップチームに昇格し、ジュビロ磐田、FC東京、アビスパ福岡、FC今治と渡り歩いたJリーグ22年間でJ1通算374試合19得点、J2通算150試合6得点、J3通算68試合1得点と輝かしい戦績を残した。
そんな駒野が現役最後の地に選んだのが今治。では、彼は当時JFL所属だった2019年からの4年間で何を残したのだろうか。本人と周囲の証言から振り返りたい。(取材・文:寺下友徳)
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11月13日、FC今治の2022年シーズンホーム最終戦となったAC長野パルセイロ戦(3-3)。プロ23年目、41歳となる駒野友一のパフォーマンスは、試合後に引退セレモニーを控えているにもかかわらず、本来のキャプテンであるMF楠美圭史から「個人的に巻いてもらおうと決めて」託されたキャプテンマーク以外は、これまでとなんら変わりなかった。
住み慣れた右SBの位置で「彼の実力で勝ち取った」(橋川和晃監督)3試合連続の先発出場を果たすと、79分間にわたって的確なポジショニングとタイミングのいいオーバーラップ、「自分の武器にしていた」クロスで攻守に貢献。特に1-2のビハインドで迎えた後半2分、オーバーラップを仕掛けてきた長野の22歳・左SB杉井颯を1対1に持ち込んで止め、MFインディオに正確なパスを供給したシーンは正に「格の違い」を象徴させるものである。
では、なぜ駒野は「なんら変わらない」のに引退の決断を下したのか。その理由は引退セレモニーを終えて記者会見に臨んだ駒野の口から明らかにされた。
「引退を決断したのは今週火曜日(11月8日)。ここ最近先発で使っていただいているなかで、すべて途中で脚がつっています。SBは90分間出続けることが使命だと思っているけど、その役割が果たせなくなってきていますし、SBのポジションは1つしかない。若手にポジションを譲ろうと思って決断しました」
実は今季、部位は違うものの3回肉離れを起こしている駒野。「何も変わらない」の裏で状態は「今治に来てから毎年のように肉離れを起こしていた」4年間の中でも最悪に近いものだった。
引退を決断した夜、2010年の南アフリカW杯で師弟関係にあった岡田武史会長にも電話連絡をした駒野。「今まで今治にいてくれてありがとう」と労いの言葉をもらったなか、両者の脳裏に去来したのはJFLからJ3を目指す闘いに挑んだ2019年当時だったに違いない。