文武両道を貫いた東大初の元Jリーガー、夢は叶わずも「おもしろいキャリア」と振り返る訳

岩政大樹や加地亮ら元日本代表レベルから学んだ“自分の型”の重要性

 プロ入り後は2016年に右アキレス腱断裂の重傷を負うなど怪我にも悩まされたが、岡山、松本、群馬の3クラブで計9シーズンにわたってプロの世界で戦った。J1の舞台に上がることや、幼い頃からの憧れだった日本代表になることは叶わずとも「後悔はないし、面白いキャリアだと思っている」と振り返る。

 そんな選手生活で「影響を受けた選手はいるか」と尋ねてみた。久木田は「キリがないくらいいる」と前置きしつつ、岡山で同僚だったDF岩政大樹(現・鹿島監督)とDF加地亮の元日本代表2人の名前を挙げた。2人からはトップ・オブ・トップの選手に共通する特徴があったという。

「本当に上のレベルにいる人たちは“自分の型”というものを持っているんです。これなら間違いないというプレーとでも言うんでしょうか。本当に簡単な例ですが、例えば岩政さんならヘディングの競り合いでは絶対に負けないですし、ポジショニングを間違えることもほとんどない。加地さんならサイドに追い詰められた時にボールをちょっと浮かして相手のお腹の脇を通すようなパスとか、スペースがない状況での“逃げ方”が本当に上手い。そういった自分の強みとするプレーを明確に持っている選手が、トップレベルで長く活躍できるんだと感じました」

 Jリーグの世界で得たその学びは、引退してビジネスマンとなった今にも教訓として胸に刻んでいる。“自分の型”を身につけられるのは、試合に出て経験を積んだからこそ。「転職して最初の頃はビジネスのことを何も知らなかった。サッカー選手と同じで試合に出て学んでいかなければいけない」。久木田は事あるごとにサッカーでもビジネスでも実践機会の重要性を強調してきた。

 2015年には添田隆司(現・おこしやす京都AC代表取締役社長)が久木田に続いて2人目の東大卒Jリーガーとなった。また、現在は東大ア式蹴球部を元Jリーガーの林陵平監督がチームを率いるなど東大とサッカーを結ぶ環境も大きく変化してきた。久木田、添田に続く第3、第4のJリーガー誕生の期待も膨らむ。

「現役中はやっぱり自分が上に行きたいと思うばかりで、ほかの選手のことを考える余裕はなかったですけど、引退した今は東大からJ1でバリバリ活躍できるような選手が出てきてほしいです。それができたら、純粋にすごいなって思います。楽しみですね」

“東大卒初のJリーガー”として注目を浴びた久木田は、“東大卒初のJ1リーガー”が誕生する日を願っている。そんな日が訪れるのも決して遠くはないのかもしれない。

(文中敬称略)

※後編に続く

[プロフィール]
久木田紳吾(くきた・しんご)/1988年9月24日生まれ、熊本県出身。熊本高―東京大―岡山―松本―岡山―群馬。東大出身初のJリーガーとなり、岡山時代の2014年にFWからDFへコンバート。J2通算152試合12得点、J3通算43試合1得点をマークした。2019年限りで現役を引退し、翌20年4月から大手ソフトウェアメーカー「SAPジャパン」でセカンドキャリアをスタートさせた。

(石川 遼 / Ryo Ishikawa)



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