長谷部&鎌田所属のフランクフルト、ELに懸ける特別な思い その情熱は業火のごとく灼熱の熱さだ

ファンが作り出した雰囲気がチームに新たな息吹 すべての力を結集してこじ開けた扉

「感情を出し切ってもうフラフラだ。まさにヨーロッパのアイントラハトが起こす面目躍如な試合だった。延長戦となった後も最後までファイトし切った。このチームのことをものすごく誇りに思う。ゴールが認められるまでの時間は永遠と思えるほど長かったよ。スタジアムの雰囲気を味わい尽くした。マーティン(ヒンターエッガー)のことを本当に嬉しく思う。難しい時期があったから。持っているすべてを出してくれたよ」

 記者会見でグラスナー監督はそう言葉を絞り出した。一時期精彩を欠くプレーでドイツメディアからも辛辣な評価を受けていたヒンターエッガー。思うようなプレーができない苦しさがあった。でも一度も泣き言を言わなかった。「必ずまた自分のフォームを取り戻す!」とファンに誓った。自分のやるべきことと向き合うために、キャプテンマークをGKケビン・トラップへと渡して、ひたむきに自分と向き合い続けた。

 この日、ファンが愛し、ファンが信頼する彼の姿がそこにあった。ゴール前で壁となり、攻撃の起点となり、ゴールさえも決めてしまう。「ヒンティー!」。ファンからの野太い応援コールが、どれだけの力をもたらしたことか。ドラマティックな結末にはそこにつながる確かな物語があったのだ。

 スタジアムからの帰り道。いろんなところにざわざわとした高揚感が残っているように感じた。ファンが作り出した雰囲気がチームに新たな息吹を吹き込み、すべての力を結集してこじ開けた扉だ。

 木曜日の夜の主役を譲るつもりはない。フランクフルトのヨーロッパツアーはまだ続くのだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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