34歳メッシのプレースタイル、変化の過渡期? 今季ゴール数“減少”の事実が示すもの
【識者コラム】全盛期を過ぎたように見えたCLレアル戦のメッシ
キリアン・ムバッペの後半アディショナルタイムのゴールでパリ・サンジェルマン(PSG)がレアル・マドリードに先勝した。
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UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16の大一番、内容的にはPSGの圧倒的優勢ながら、レアルの固い守備とティボー・クルトワの好守に阻まれて、フラストレーションの溜まる展開だった。
それだけにムバッペの一発はカタルシスであり、スーパースターの新旧交代を印象づけた感もあったかもしれない。
リオネル・メッシは34歳になった。ムバッペがゲットしたPKを蹴ったが、クルトワにストップされるなど、レアル戦でのメッシは全盛期を過ぎたように見えた。
依然として素晴らしい選手ではあるけれども、複数の相手を手玉にとってペナルティーエリアへ突入する得意のラッシュもほとんど見られなかった。今季リーグ戦ではわずか2ゴールしか決めていない。
右にアンヘル・ディ・マリア、左にムバッペ。メッシはセンターフォワードでスタートしている。いわゆる偽9番だが、むしろMFだった。
ディ・マリアとムバッペが中央で2トップのように並び、サイドはアクラフ・ハキミとヌーノ・メンデスが上がって幅をとる。メッシは中盤に下りてマルコ・ヴェラッティらと連係しながらパスを捌いていた。
後半27分にディ・マリアに代わってネイマールが登場すると、ネイマールとの壁パスを何度か試みてゴールへ迫る。ムバッペは右サイドにポジションを変え、相変わらず最も相手に脅威を与えるアタッカーだった。
守備を考えるとディ・マリアがいたほうがバランスは良さそうだが、さすがにメッシ、ネイマール、ムバッペが揃うと攻撃は迫力が増す。長身選手を投入してのパワープレーとは攻め方が違うけれども効果としては似たようなものかもしれない。
ともあれ、この試合のメッシはムバッペの影に置かれた格好だった。
ミッシェル・プラティニ以来、3度のバロンドールを獲得したマルコ・ファンバステンは29歳で引退している。度重なる負傷のためだが、もし無事にプレーを継続していたとしてもプレースタイルを変えたのではないかと言った人がいる。ヨハン・クライフだ。
ファンバステンは無類のゴールゲッターだったが、クライフの説では「アシストに比重を移すだろう」とのことだった。クライフ自身がそうだったし、アルフレド・ディ・ステファノやペレもそうだった。個人差はあるが30歳を過ぎるとスピード、キレ、パワーはどうしても落ちてくる。何より長い距離の疾走を繰り返すプレーは難しくなる。
クリスティアーノ・ロナウドやフェレンツ・プスカシュのように、運動量をセーブしてゴール前に集中し、ゴールゲッターとして延命するやり方もある。だが、メッシは少し引いた位置からラストパスを狙うスタイルに移行しつつあるようだ。極端に変わったわけではないが、数年前から少しずつ比重が変わってきている。
かつてのようにその場所からペナルティーエリアへ突入するのではなく、ムバッペのような若いゴールゲッターを助ける役割だ。
ゴール数の極端な減少は単なる不調なのか、スタイル変更の過渡期のせいなのか。スーパースターのキャリアの終盤はどんなふうになっていくのだろう。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。