「監督は2つのバッグを用意しておくもの」 サッカー界を取り巻く“去り際”のスピード感

監督は「解任された監督」と「これから解任される監督」の2種類

 今のファンはホモセクシャルが解任理由になるのかと思うかもしれないが、まあそういう時代だったのだ。海千山千、アクの強いタイプだったようでフロントとの確執は絶えなかった。

 キシュペストでは試合途中でベンチから引き揚げてスタンドで競馬新聞を読んでいたが、そのままいなくなってしまったそうだ。自分の指示に選手が従わなかったためで、その中にフェレンツ・プスカシュがいた。キシュペストはプスカシュの父親が前監督で強い影響力があり、キシュペストでプスカシュ親子と対立しても無駄だと分かっていたのだろうが、それにしても決断が早い。

 解任された監督の去り際が早いのはグットマンに限らない。Jリーグでも解任が発表されてからコメントを取ろうと思ってもたいがい遅い。本当に、あっという間に監督室はもぬけの殻になる。

「監督には2種類ある。解任された監督と、これから解任される監督だ」

 たしかイングランドの監督の言葉だが、これはいくぶん選手にも当てはまる。クビになるのは早いが、新しい職場を見つけることもできる。厳しい競争社会ゆえに、力があれば違う場所でまた仕事をするチャンスもあるわけで、去り際のスピード感はそういう業界の習慣なのだろう。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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