チームビルディングの専門家と見る日本代表の“組織としての完成度” ジャイアントキリングを起こすチームを作るには

メンバーが入れ替わると後戻り

 

――勝てる組織のポイントとは?

「基準はシンプルです。それは、ストーミングを超えた事実があるかどうか。多くの組織はフォーミングで、特に日本人はここにとどまりやすい。言いたいことがあっても空気を読んで遠慮し、『今のままでは勝てない』と誰かが言い出すと、『まあまあ、そんなこと言わないで』とフォーミングに引き戻してしまう。それを“フォーミング体質”と呼んでいます。

 南アフリカ大会では、直前の選手だけのミーティングが良かったようですね。中澤佑二選手が大会後のインタビューで、『みんなで意識を合わせてやろうという話で終わると思ったが、若手が今の戦術じゃ駄目だと言い出して、ひやひやした』と言っていました。うまくストーミングを乗り越えた結果、翌朝の練習から雰囲気がガラッと良くなって一体感が出たそうです」

――中澤は、意見を言い合うことで互いに責任感が出たと振り返っています。ブラジルW杯に臨んだ代表も昨年10月の欧州遠征中、選手同士が戦い方について意見をぶつけ合ったことがありました。W杯では研究されるから、監督の言うことをやるだけでは駄目だという機運があった。長谷部誠主将や、実質的なリーダーとなっていた本田らがまとまった意見を監督に持ちかけ、すり合わせた。

「セルビアとベラルーシに2連敗したときですね。ストーミングでは、自分の意見を言うことで“自分ごと化”が進みます。ストーミングを超えられたから、翌月の遠征でオランダに2-2、ベルギーに3-2という成果が出たのだと思います」

――そういう過程を経て固まった「どんな相手に対しても、自分たちのサッカーをやることを突き詰める」という方向性について、全員が納得したかというと疑問はあります。内田篤人や川島永嗣のように、相手に応じた戦いをすべきという現実的な考えを持った選手もいましたが、大きな声にならなかった。内田はコートジボワール戦後、「W杯は勝つのが目標なのか、自分たちのサッカーをすればOKなのか。選手も見ている人も、人それぞれ」と漏らしました。自分の考えを問われると「今は大事な時期だから。あまり言わない方がいい」と口をつぐんだ。

「その状態はフォーミングに聞こえます。顔を合わせる時間が短い代表チームは、チームビルディング的にはとても難しい。というのは、新しいメンバーが入ったり反対に誰かが抜けたりすると、その人が何をするのかが決まっていないという意味で、第一ステージに後戻りする。大久保嘉人選手が入ったとか、遠藤保仁選手が先発から外れたら、またフォーミングなのです」

――確かに大久保が入り、約束ごとが曖昧になった面がありました。例えば、決まりとしてサイドの選手は外に張らないといけないのに、ザンビア戦に右MFで出場した大久保は『選手間の距離が遠くなると良さを出しにくい』と中に入っていた。そんな彼を見た香川真司も内側に絞る動きが増えた。大久保が許されるなら俺も、という雰囲気だった。

「まさにフォーミングに戻っているわけです。僕の視点では、大久保選手はストーミング体質で、空気を読まずに自分のやりたいことをやれるところが魅力。せっかくストーミングへ誘ってくれる存在なのに、そこで意見を出し合うチャンスにできなかったのが一番の問題です」

――大久保には彼なりのビジョンがある。前回大会の経験もあるし、もっと早くに呼ばれて「このままでは駄目」という警告を発していれば、ストーミングのトリガーになり得たかもしれない。

「本田選手もストーミング体質。ただ、影響力が大き過ぎると弱点にもなり得ます。チームづくりは、ジグソーパズルに見立てると分かりやすいんです。全てのピースが同じ大きさなら、凸と凹をストーミングさせて組み合わせられますが、1つだけ大きいと組み合わせにくい。絶対的なリーダーがいて周囲がものを言えないとか、メンバーがリーダーに依存してしまうという状態です」

――本田自身は議論好きで、むしろ常に反対意見や異論を求めていて、前回大会のミーティングでは火付け役になった。今回は存在が大き過ぎ、違う意見を持つ選手たちが遠慮したかもしれません。

「結果的に揺るぎないフォーミング状態になってしまったかもしれませんね。そういう場合は、あえて一時的に絶対的存在を外し、ストーミングを進めるという手法もあります」

 

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