チームビルディングの専門家と見る日本代表の“組織としての完成度” ジャイアントキリングを起こすチームを作るには

日本人の“体質”を理解できなければ、理想のチームは作れない

 

――前回は大会前に低迷して、このままではまずいという雰囲気が自然と生まれた。一方、ブラジル大会前は勝ち続けたから、このままでいいという感じだった。初戦直前にも選手ミーティングがありましたが、1つになって戦うことを確認したような内容でした。

「ストーミングを経なければチームになれない。この認識がないと、意見の対立は単にムードが悪くなっただけに感じてしまいます。今大会中の報道で最も気になったのは、初戦後に長谷部主将が『今は選手だけのミーティングをやる必要はない。場合によっては裏目に出ることもある』という趣旨の発言をしていたこと。ストーミングを避けたように映りました」

――中田英寿氏など力のある選手がいながら、一丸になりきれずに未勝利に終わったドイツ大会のトラウマもあった。だから、前回大会はバラバラになっては駄目だという意識が強く、最後のところで一丸になろうとストーミングに踏み切れた。

「もしかしたら今回は、選手たちが“一丸”という意味を“和を乱さないこと”だと思った可能性があります。フォーミングでの一丸と、ノーミングでの一丸は全然違う。ストーミングが肝であるという視点がないから、そうなってしまうのです。ちなみに、ストーミングでも雰囲気が悪くならないための作法がある(※を参照)。全員が意見を出さないと進めないという考え方を共有するかどうか。共通の目的やビジョンを持つことも大事です」

――共通の目的があったかも曖昧でした。本田や長友佑都らがW杯優勝を掲げる一方、そうではない選手もいた。ザッケローニ監督も最後まで目標を言わなかった。

「自分たちのサッカーとは何だったのか、というテーマが取りざたされています。ノーミングなら全員がそれを同じ表現で語れる状態ですが、今回はどうだったでしょう」

――こういう状況になれば力を発揮できるというビジョンは共通していたはずですが、内田の発言からも分かるように、それが常に可能かという確信には温度差があった。

「例えばコートジボワール戦のように逆転されたとき、引き分けでいいのか勝ちにいくのかが明確に共有されなければ、フォーミング状態になります。また、ギリシャ戦のように相手に引かれたときにどうするかが共有されていなくても同じ。監督や選手がそういう視点を持っているかどうかで大きな差が出てきます」

――監督は和を重んじた。

「メンバーをまとめるのは、非常にうまい監督なのでしょう。海外の選手は大抵ストーミング体質なので、組織はノーミングに至るか崩壊かしかない。イタリアでは混乱を収拾するのに苦労しただけに、日本は既にまとまっているという勘違いがあったかもしれない。日本人のフォーミング体質を理解せず、まとめるだけではチームになれません」

――日本人を分かっていない外国人監督なら、同じ失敗をするかもしれない。過去のW杯優勝国も自国の監督ばかりです。

「外国人監督でもいいのですが、結果を出すためにはスタッフとしてチームビルディングの専門家を置く必要があるでしょう。南アフリカ大会はたまたまノーミングまで行けたとしても、チームの本質を分かっていないと再現性がない。日本人はストーミングの作法さえわきまえれば、和を大事にする文化が強みになってノーミングにいきやすい。そういった特徴もあるのです」

※ストーミングで解散しないための「5つの作法」

1:ビジョンを示す→ビジョンがないと何のためにやるか分からず、解散の危機に陥る

2:ストーミングの「意義」を共有する→成長に必要なチャンスであることを、メンバー全員が理解する

3:個人の安全を確保する→無駄に感情的にならず、皆の意見を出し合うことの重要性を共有

4:グループ全体としての安全を確保する→売り上げが落ちても資金ショートしない、組織の生命線は保つ

5:ストーミングがスムーズに進みやすくする→形式的リーダーによる支配状態をなくす、不確実な題目設定など

(サッカーマガジンゾーン2014年7月号に掲載)

【了】

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

 

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