戦術「パターン化」のEURO強豪国 “型破り”な方法で凌駕するチームが現れず残念

イングランドが準決勝デンマーク戦で見せた“決め打ち”の守備

 守備でもパターンというか、“決め打ち”が見られたのも今大会の傾向かもしれない。

 準決勝のイングランドは左ウイングのスターリングが攻撃時のポジションのまま、守備でも左のハーフスペースで守っていた。基本陣形は4-2-3-1なので、本来なら左の外レーンをスターリングが守るはずである。トップ下のマウントはポジションを下げて2列目のラインに入っていたが外レーンを守っていない。つまり、デンマークの右ウイングバックであるイェンス・ストリガー・ラーセンをフリーの状態にしていた。

 当然、デンマークはフリーでいるストリガーへボールを預ける。すると、イングランドは左SBのルーク・ショーが一気にストリガーにプレスを仕掛け、同時に残りのDF3人がボールサイドにスライドしていった。これは明らかに、ストリガーを狙い撃ちにした守備である。

 おそらく、逆サイドのヨアキム・メーレより奪いやすいという判断なのだろう。わざと餌を撒いておいて罠にはめるような守り方だった。こうした相手の誰にボールを持たせるかを決めた守り方は珍しくないが、イングランドのケースは少し手が込んでいて、同様に守備側の意図どおりに展開させようという守備は他のチームにも見られた。

 ビルドアップがパターン化しているので、守備もそうなるわけだ。その試合用の作戦を立てて実行する戦術的なIQの高さは感じられた。半面、互いにちょっと窮屈な印象もあり、そうした小手先の争いを豪快に凌駕できるチームがなかったのは少し残念ではあった。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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