戦術「パターン化」のEURO強豪国 “型破り”な方法で凌駕するチームが現れず残念

決勝で対戦するイングランド代表とイタリア代表【写真:Getty Images & AP】
決勝で対戦するイングランド代表とイタリア代表【写真:Getty Images & AP】

【識者コラム】決勝進出のイングランドとイタリア、他国より少し複雑な可変システムを導入

 欧州選手権(EURO)の決勝カードがイングランド対イタリアに決まった。ファイナルをロンドンで行うイングランド、復権を果たしたイタリア。どちらが優勝するかにかかわらず、決勝進出時点で両国はすでに成功している。

 戦術的にも最も洗練されている2チームだった。

 ほぼ自国リーグの選手で代表を編成できるイングランドとイタリアは、その点でかつてのスペイン、ドイツと同じだが、自国リーグの特定クラブ(スペイン=バルセロナ、ドイツ=バイエルン・ミュンヘン)を軸に編成していたのとは異なる。クラブの戦術を代表に転用するのではなく、代表独自のやり方を作っていた。

 何か新しいことを始めたわけではない。他国よりほんの少し複雑な可変フォーメーションを導入していただけだ。

 イタリアは左サイドの三点移動。左のMFがセンターバック(CB)の近くまでポジションを下げ、代わりに左サイドバック(SB)が上がる。これに連動して左ウイングが左のハーフスペースへ移動してライン間の受け手になる。選手が違っていても左の三点移動が同じだったのは興味深い。最初はマヌエル・ロカテッリ(MF)、レオナルド・スピナッツォーラ(左SB)、ロレンツォ・インシーニェ(左FW)だからこうなのかと思っていたが、人が代わっても同じだった。右側のポジション移動がないのも同じ。

 イングランドも左サイドの三点移動による可変を行っていた。こちらもやはり人が違っても同じ。ただ、イタリアより若干複雑で、左ウイングのラヒーム・スターリングと入れ替わりにメイソン・マウントが左サイドに開くレーンの入れ替えがある。さらにライン間担当に、センターフォワードのハリー・ケインが加わるのもイタリアとの違いだった。

 イングランドはイタリアよりライン間担当が多く、ポジション移動も少し複雑だった。ただ、どちらも事前に仕込まれたパターン化された可変だったのは同じだ。

 強豪国の戦術はどれも似ていた。ボール保持を前提としていて、敵陣に攻め込んだ時はタッチラインまで開いて幅をとる選手が2人いる。そして左右のハーフスペースで相手のMFとDFの間でライン間担当となる選手が2人。トップに1人。計5人が5レーンをすべて埋める。どのポジションの選手が幅をとり、ライン間担当になるかはチームによって違いがあるが、5人が5レーンを埋めるのは同じだった。

 ただ、ライン間担当は狭いスペースでテクニックとアイデアを問われる特殊要員なので、チームによっては2人揃わないケースも。ドイツはカイ・ハフェルツしか機能しておらず、フランスはそもそもアントワーヌ・グリーズマンしか適任がいなかった。高いクオリティーのライン間担当を2人揃えたイタリア、スペイン、3人いたイングランドがベスト4というのは偶然ではないだろう。

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西部謙司

1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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