イングランドは初のEURO王者になれるか 気になる監督の「弱さ」と英国民の「分裂」

イングランド代表のサウスゲート監督【写真:ロイター】
イングランド代表のサウスゲート監督【写真:ロイター】

サウスゲート監督に感じる優勝指揮官としての“資質”の足りなさ

 先に“突発的な事件が起こって選ばれた”と書いたが、サウスゲートの代表監督就任の契機は、本人が代表監督就任を熱望し、満を辞してイングランドのボスに収まったアラダイスが、英高級紙「デイリー・テレグラフ」のおとり取材に引っかかり、40万ポンド(約6100万円)の専属料と引き換えに、FAの移籍規約違反となる行為をアドバイスして、わずか1試合を指揮したのみで辞任したこと。それでところてん式に、当時U-21代表を率いていたサウスゲートが急遽代行監督に就任し、その後のW杯予選で結果を出して正式監督に就任した。

 そうした出発点からして、サウスゲートが待望の監督だったとは言えない。そしてやはりEUROが開幕してグループリーグ3戦を終えた現時点で、メジャートーナメントを優勝する監督としては、その資質が“足りない”と感じた。

 まずはクロアチアとの初戦。誰が見ても最大の疑問は左サイドバックの起用だった。ベンチにチェルシーでレギュラーのベン・チルウェル、そしてマンチェスター・ユナイテッドのレギュラーであるルーク・ショーという本職2人を差し置いて、本来は右サイドバックのキーラン・トリッピアーを起用した。

 先発イレブンに“デッドボール・スペシャリスト”――つまりFK、CKでのセットプレーのキッカーが見当たらなかったことで、トリッピアーを入れたという見方が大方を占めた。しかしそれはともかく、グループリーグ最大の難敵と見られていたクロアチアに1-0と勝利を収めたのだから、結果良し。この先発起用について聞かれたサウスゲートは、「一般の意見に惑わされてはいけない」と語り、自らの決断を擁護した。

 ところが第2戦では先発にショーを起用し、コロッと自分の発言とは真逆の変更を見せてしまう。基本、勝ったら先発はいじらないものだろう。そしてメンバーを変更したスコットランド戦のパフォーマンスが低調なものに終わり、試合後は0-0の引き分けながら、まるでグループリーグを敗退したかのような非難轟々のブーイングがウェンブリーにこだました。

 確かに試合前は、今大会の“優勝候補”と優勝オッズ“201倍”のチームの対戦となり、試合の勝利オッズもイングランド1.3倍、スコットランド11倍という大差だった。そうした状況に加えて、初戦のクロアチア戦が優勝候補としては不満な内容だったこともあり、イングランドサッカーの聖地に集結したファンがスカッとするような大差勝ちを期待したのも無理はない。

「BBC」の解説陣も元イングランド代表MFジャーメイン・ジェナスが4-0勝利、元イングランド代表FWクリス・サットンが3-0勝利を予想していた。

 このようにメディアにも煽られ、3-0、4-0だと膨張した期待感が、格下であるはずのスコットランドに対し、まるで手足を縮めて甲羅の中に閉じこもった亀のような、かなり気弱に見える守りに徹してスコアレスドローに終わったことで、欲求不満が爆発して怒りに変わった。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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