良いチームも「金で買える」時代 チェルシーとマンCを愛するファンの誇りと哀愁

過去と切り離されて増強されたサイボーグのような現在のチーム

 マンチェスターの男の子は6~8歳で重大な決断を迫られる。赤か青か。

 コリン・シンデラーは赤のユナイテッドではなく、青のシティを選んだ。彼の著書『Manchester United ruined my life』は、直訳すれば「僕の人生を台無しにしたマンチェスター・ユナイテッド」だ。彼の少年時代はシティが絶頂期から坂を転げ落ちるように衰退した時期であり、逆にユナイテッドが躍進していく時代だった。

 一時は街のライバルを名乗るのもおこがましいぐらい格差がついたシティとユナイテッドだったが、それでも街中ではシティのファンが多かったものだ。ユナイテッドは少し街外れにあり、シティとはよく付けたもので街の中心部の人々にとってシティこそマイ・チームなのだ。シティは弱かったし、何もかも上手くいかなかったけれども、そんなほろ苦い日常をシティのファンは愛していた。シンデラーの著書も辛い出来事の合間には、透き通るような空の青が垣間見えていたものだ。

 しかし数年後、シンデラーは『Manchester City ruined my life』を書いている。大好きなシティが中東のオイルマネーに買収され、大嫌いなユナイテッドのようなグロテスクなクラブに変貌した。愛したシティへの惜別の物語だった。

 没落したクラブにある日突然、救世主がやって来た。彼らの動機はよく分からないが、サッカーで儲けようと思っていないのは明らかで、気前のいいサンタクロースのように玩具を与えくれた。かつてイングランドで最も早くユースチームを立ち上げ、史上最年少のアタックラインを送り込んだチェルシー、ハンガリーの偽9番を採り入れた「レヴィ・プラン」で知性と冒険心を見せたシティ。そうした過去とは切り離された、増強されたサイボーグのようなチェルシーとシティが生まれたわけだ。

 ただ、古参ファンはよく分かっている。アブラモビッチが来た時、スタンフォード・ブリッジにはロシア民謡が鳴り響き、「チェルスキー」と大書されたTシャツがバカ売れしていた。「ユナイテッドのファンが車に給油するたびに、俺たちの資金源になるかと思うと痛快だ」とうそぶいていたシティファンが口ずさむのは、「ブルー・ムーン」なのだ。ユーモアを絶やさず、寂しくて優しい歌を歌う。きっと忘れてはいけない大事なことを思い出すに違いない。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)


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西部謙司

1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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