37歳長谷部誠が輝き続ける理由 ドイツでの“いじり”に見る卓越した「バランス感覚」

長谷部を支える身体的・精神的なバランス感覚「気分良くサッカーができている」

 本人はどう思っているのだろう。自身が長く一線級で活躍できる理由について日本人記者に聞かれた長谷部は、「しいてあげるとすると……」と前置きをしたうえで、「サッカー選手として、人間としてのバランス力かなと思っている」と語り、話し出した。

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「小さいところでいえば食べ物。もちろん、僕は食事に気をつけているかと言われたら、気をつけてはいる。家で日本食とか体にいいものを食べるようにはしている。でも僕はお菓子も大好きで、お菓子も食べますし(笑)。揚げ物も食べるし。揚げ物を食べないサッカー選手もいるけど、僕は食べるし。お菓子も大好きで食べるんだけど、自分の中でこれ以上は食べないと決めたら食べない。そのバランス感覚かなと思ってますね」

 それは身体的にだけではなく、精神面でもとても大切なことなのだ。どっちかに偏ることなく、自分の体と心と向き合って、楽しむところは楽しむ。そして線を引くところは線を引く。そうしたバランス感覚が今の身体的、そして精神的な充実をもたらしているのだろう。

「今は肩の荷を下ろして、気分良くサッカーができている」と語っていたが、若い選手との関係性もとても微笑ましいものがある。良い意味でいじられている。

「チームメートからは『レジェンド』とかのほかに、『アルターマン(年寄り)』『オーパ(おじいちゃん)』とか、日本語でそのまま『おじいちゃん』ってからかわれたり」

 広報がすかさず、「それ、誰が言ってるの?」と聞くと、「コスティッチ、ヨビッチ、ティミ(チャンドラー)(笑)」とあっさりとばらしてしまう。これを聞いて、モニター向こうのドイツ人記者も大爆笑だ。

 さらに契約延長について「チームメートはどんなことを言ってましたか?」と質問されると、「チームではこの年齢になって契約延長するとね、基本的には冷やかされているというか。『いつまでやるつもりだよ』とか『そんなに稼いでどうするんだよ』と言われるんですけど(苦笑)」と明かしてくれる。プロフェッショナルの塊やストイック、ハングリー、若手選手が近寄りがたいといった雰囲気や関係性ではないのだ。“人間”長谷部誠の魅力がそこにあるのだろう。

「若い連中、僕の次(の年長選手)がもう30ぐらいなので、20前後の選手も多い。そういう選手と一緒に生活しながら、勝負の世界にいられるという幸せは何ものにも代えがたい。今の時間を、すごく楽しんでいます」

 ひょっとしたら長谷部のキャリアハイは、それこそここから始まるのかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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