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日本からワールドクラスの“天才”は生まれるか 南米の環境に見るスーパースターの条件とは?
【亘崇詞の“アルゼンチン流”サッカー論|最終回】名将ビラルドが示唆していた日本サッカーの未来
1986年メキシコ・ワールドカップ(W杯)を制したアルゼンチン代表のカルロス・ビラルド監督は、「日本はコロンビアみたいなサッカーをするべきだろう」と話していたという。この頃のコロンビアは、インサイドキックの魔術師のようなカルロス・バルデラマを中心にショートパスを連ねるスタイルで世界を席巻。1994年アメリカW杯の開幕前には、ペレが優勝候補に挙げたほどだった。
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かつて亘崇詞が日テレ・ベレーザ(当時)の指導に携わった時も、同じような面白さを感じた。
「なかなか女子選手には、男子のように一発でサイドチェンジをするキック力がありません。サイドを変えようと思えば、一度ボランチを経由し、2人のボランチ間でつないでから丁寧に逆サイドへ渡す。しかしパスの本数が増えてもぶれない。時計のような精密さを極めていく。それは日本企業が世界に伍して戦っていくうえでも大事なポイントだったと思います。実際に指導者ライセンスを受講して感じたことですが、スポーツ全般を見ても本当に細かく丁寧に極めていくことができるのは、日本の大きな強みだと思います」
結局日本サッカーは、ほぼビラルドの提言に近い形で進化を遂げてきた。
「例えばオランダなら1本のキックで逆サイドへ展開できるから、ピッチをワイドに使ってそこから1対1の仕掛けというサッカーになる。一方、日本はそれができない分だけ人数も手数もかけて、数的優位を作りながら崩していく。女子は世界へ出るとスピードとパワーで劣るわけですが、男子が驚いたり大事なヒントを提供したりすることも可能だと思うんです」
一方で日本が世界に太刀打ちしていくためには、組織力で勝負をしていくしかないのだろうか。日本からはクリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシ級のクラッキ(天才)が生まれてくる可能性はないのか、敢えて亘に質問をぶつけてみた。
「組織、組織と言っても1人で何もできなければ世界では戦えません。でも日本からもクラッキが生まれてくる可能性は大きいし、出てきてほしいと思います。そのためには、才能を伸ばしていける環境に身を置いて、やってくる敵に勝ち続けなければいけない。相手チームはもちろん、チームメートとの競争、メディアやファンからのプレッシャー……、すべてに勝って少しずつステップアップしていく必要があります」
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。