名選手の美技を生む“点”の感覚 「足を手に近づける」ための研ぎ澄まされた技術論

“点”が分かっていれば、当たらなかった時の失敗も自覚できる

「プロの選手でも、箱に入っているティッシュ1枚を足の親指と人差し指で取り出せない人がいる」と、川勝良一さん(元東京ヴェルディ監督ほか)が嘆いていたことがあった。そんな足の感覚でちゃんとプレーができるのか、と。サッカー選手は足を手のように使えなければならないのに、指を自由に動かせないようでは困るだろうという話だった。

「やってみると、この部分で触っていたんだなと分かったところもあった。みんな時々、裸足でやったほうがいいかもしれないね」

 風間さんは取材を終えて、そう言っていた。いろいろやってもらった結果、シールを貼った場所を全部合わせたら、足ツボマッサージ店によく置いてある図みたいになった。いろいろな場所を、その都度使い分けていたからだ。

 ディエゴ・マラドーナがオレンジやゴルフボールでリフティングができたのも、足の一点と球体の一点を合わせる感覚があったからだろう。“点”が分かっていれば、当たらなかった時の失敗も自覚できる。失敗の原因は分かっているので修正ができる。“面”で考えてしまうと、その誤差は意識されず修正は効かない。

 サッカーは手を使う球技と違ってボールをつかめない。足を手に近づけるには、足のどの部分を使うかというディテールに踏み込む必要があるのではないか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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