独王者バイエルンの“狂った歯車” 長谷部も実感「監督を代えたらという問題では…」

この日は出番のなかった長谷部がバイエルンについて語った【写真:Getty Images】
この日は出番のなかった長谷部がバイエルンについて語った【写真:Getty Images】

長谷部が見た迷走ぶり 「良い時のバイエルンとは雲泥の差があるというか…」

 そして、その後の展開もいただけない。守備が不安定であることを指摘され続け、コバチ自身も「簡単なミスから失点しすぎ」と苦言を呈していたチームが、数的不利の状態で守備に定評があるわけではないフィリペ・コウチーニョとチアゴの2人をセンターハーフに置くのはどうなのだろうか。

 攻撃はいい。もちろん起点を作れる。ボールを運べる。だが、ボールロスト後にいつもそこを狙われて、不利になっていく。

 コバチは試合後の記者会見で、その狙いを「守りに行くと相手に走らせられて、終盤厳しくなると思った。むしろ、2人を残してポゼッション率を高めて試合を進めるというのが重要になると考えた」と明かしていた。狙いとしては悪くない。ただ、それもチームが機能していれば、だ。

 王者としての誇りもあるだろう。守りを固めるわけにはいかないという、外からのプレッシャーもあったのかもしれない。だが、数的有利で真っ向勝負はあまりにリスクが高すぎた。元日本代表MF長谷部誠は、現在のバイエルンについてこのように語っていた。

「僕もすべてを見ているわけじゃないですけど、本当に良い時のバイエルンとは雲泥の差があるというか、やってても見ててもそこは感じる。もちろん、個々の選手のレベルはリーグでもトップであるだろうし、ただそれが上手く噛み合わないと。ホント、ここ1、2、3年くらいは上手くいっていない。それを監督を代えたらとか、そういう問題でもない気がしますけど」

 実際にこの日の失点の仕方は、バイエルンファンからすれば残酷すぎるものだったことだろう。特に前半33分の2点目はバス・ドスト、パシエンシア、セバスティアン・ローデ、フィリップ・コスティッチがダイレクトパスの連続で相手を完全に翻弄し、最後はジブリル・ソウが右足でゴール。普段はバイエルンが見せているプレーを、逆にされてしまったのだ。

 立て直すことも、流れを食い止めることもできない。1-4とされた後に、ボランチのハビ・マルティネスを投入するという“大後手”は、コバチの中で思考サイクルが完全に乱れてしまっていることの表れだった。前半37分に単独ドリブルで持ち込み、右足で見事なゴールを決めるなど前線で孤軍奮闘していたロベルト・レバンドフスキは、終盤ついに我慢の限界を超えて怒りを爆発。大きなジェスチャーで叫び声を上げていた。

 試合後、どのようにミスをなくすことができると思っているのかと聞かれたコバチは、「ミスをすぐになくすなんてレシピがあるのか? ボールロストが多い。試合では2タッチではなく1タッチでどんどんプレーをしないと。トラップ、ボールを運ぶ、パス。そこでのミスが多いんだ。そこのベーシックをトレーニングしているが、ブンデスリーガのインテンシティーは別物だ」と答えていた。なぜシンプルにプレーをしないんだという憤りもあったことだろう。その気持ちも分かる。

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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