Jリーグに“帰還”した日本人指導者 オーストリアで名将から学んだ情熱と積み重ねた経験
神戸のアシスタントコーチに就任したモラス雅輝氏 トラパットーニ監督の“生きた言葉”を吸収
先日、監督交代を発表したJ1リーグのヴィッセル神戸で新たにアシスタントコーチを務めることになったのがモラス雅輝だ。
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その名前からよく誤解されるが、ハーフではない。母親の再婚相手の姓を名乗っている生粋の日本人だ。ドイツに渡ったのが16歳の時。18歳の頃から指導者としての活動を開始すると、オーストリアを中心に活躍の場を広げ、その堅実で情熱的な仕事ぶりは高く評価されている。
2007年にはオーストリア・ブンデスリーガ1部レッドブル・ザルツブルクで、元日本代表の宮本恒靖(現・ガンバ大阪監督)と三都主アレサンドロの通訳を担当。その後、09年には浦和レッズでフォルカー・フィンケ監督の下でコーチに就任していた。5月下旬、インスブルックの旧市街にある素敵なカフェに案内してくれてくれたモラスは、これまでの自分を述懐しながら落ち着いた口調で語り出した。
「自分はある意味、ラッキーだったと最近本当に思うんですね。日本ではフィンケとも仕事ができた。そして僕がレッドブル・ザルツブルクに初めて行った時には、監督がトラパットーニだったんです。1年半、彼からいろいろ学べた。考え方もすごく面白かった」
出てきた名前はイタリア代表やユベントス、バイエルンで指揮を執るなど世界的な名将の1人だったジョバンニ・トラパットーニ。モラスは通訳として監督の生きた言葉に触れ、貪欲に吸収していった。
「トラパットーニは確かに守備第一で、チームがリードしていたら絶対フォワードは外して、守備に1枚入れるというのはあった。でも彼のハーフタイムでの選手に対する接し方とか、コミュニケーションの取り方とか、練習中の、特に若い選手に対しての教え方とかは素晴らしかった。あの時で68歳だったんですけど、選手に対する愛情、選手にこれを伝えたいっていう気持ちがすごかった。
ある時の練習で若い選手のスローインが良くなかったと指導し始めるんですけど、すぐにスイッチが入っちゃう。残りの選手が『いつ終わるんだ、これ?』と思っているんだけど、気にせずに一生懸命教えている。70歳近い人が、18歳や19歳の選手にそこまでの情熱を持ってスローイン一つ指導しているのを見て、僕は本当にすごいと思った」
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中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。