「ジャパンウェイ」の追求とW杯の奇跡 歴史的勝利の裏にあった“監督を越えた瞬間”

2015年W杯でエディー氏をチームディレクターとして支えた稲垣純一氏【写真:Football ZONE web】
2015年W杯でエディー氏をチームディレクターとして支えた稲垣純一氏【写真:Football ZONE web】

「ジャパンウェイ」を実現するためのフィジカルトレーニング

 日本人の特長を生かすためのハイレベルなフィジカルトレーニングを実現するために、エディー氏はしっかりと体制を整えた。

「S&C(ストレングス&コンディショニングコーディネーター)においても、エディーとはサントリー時代からずっと一緒だったジョン・プライヤーというコーチを招聘しました。そういったスペシャリストはもちろん、(フラン・)ボッシュという陸上選手のスピードトレーニングの世界的大家も採用していました。ラグビーの場合、100メートルを10秒で走るよりも、50メートルを5秒で走る選手、10メートルを世界一速く走る選手が欲しいんです。そのためのトレーニングをしていました。オランダ人のボッシュは、そういうトレーニングができるコーチでした。エディーさんが彼を見つけてきた。五郎丸には、かなり効果があったみたいで、もともと足が遅かったですが、短い距離はかなり速くなりました」

 このエピソードを聞いて思い出したのは、リヌス・ミケルスとヨハン・クライフが作り上げたオランダの「トータルフットボール」だ。その陰では、徹底的なフィジカルトレーニングが行われていたという。クライフ曰く「あのフットボールをするのに、一番必要だったのは強靭なフィジカルだった」と。

 日本人の特徴を生かすために、彼は前出の相撲以外にも多くの世界で成功した日本人指導者の話を収集したという。

「エディーさんは他の競技のコーチの元へ、勉強にすごく行ってましたね。特に世界で勝った日本人のコーチ。たとえば野球の原(辰徳)さん、サッカーで言えば佐々木(則夫)さんと岡田(武史)さん、バレーボールの眞鍋(政義)さん。そういった人たちに話を聞いていた。みんな共通して言うのが“日本人らしい”ということ。野球で言えば原さんの言っていた『スモールベースボール』は、ホームランを狙うのではなくて相手が嫌がるような細かいバントやヒットエンドランを使って進めていく野球。佐々木さんは素早いパスでつないでいく。岡田さんなんかもそうですよね。眞鍋さんはデータに基づいて選手を指導して、とにかくボールを拾うバレー。共通することは“日本人らしい”という言葉は使うので、エディーさんも確信を得たんじゃないかと思います。『俺の言ったことは間違いないだろう』と」

 本当の「ジャパンウェイ」の道は容易ではない。その定義と解釈でさえ難しい。ただ、ここでヒントになるのは「インサイドアウト」と「アウトサイドイン」という発想だ。

「インサイドアウト」というのは、飛行機のコックピットから外を見る視点のことで、「アウトサイドイン」とはGPSで見た自分の位置、つまり鳥の目で見た自分たちということだ。

 エディー氏は外国人として日本人を見る「アウトサイドイン」の視点と、ラグビーという視点から日本ラグビー界のために他から学ぶという「インサイドアウト」の発想を、何度も行き来していたように思う。「ジャパンウェイ」を追求するには、この「アウトサイドイン」と「インサイドアウト」を、何度も繰り返しながら輪郭を明確にしていくことが必要だろう。

 南アフリカ戦の歴史的勝利は、エディー氏と選手の間に緊張関係があっても、逃げずに戦ってきた稲垣氏の勝利でもある。ここでは紹介しきれないエピソードもたくさん披露してくれた。

 稲垣氏はサントリーサンゴリアスのGMとして多くの実績を残し、エディー氏を招聘した。トップリーグ改革の先頭に立ち、多くのチームをまとめ上げるリーグのリーダーとしてのマネジメント経験を持ち、代表チームの強化ダイレクターとして南アフリカ戦の勝利に貢献した。クラブ、リーグ、代表とすべての立場を理解しつつ、成功に導いた功労者だ。

 今後稲垣氏が、ラグビー界にとどまらず、日本のスポーツ界にそのレガシーを伝えることを期待したい。その大きな身体と柔和な表情には、それだけのものがたくさん詰まっているように見える。

(FOOTBALL ZONE編集部 / Sports Business Team)



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