日本代表FW大迫がドイツで陥るジレンマ 指揮官からの信頼と“右サイド起用”の呪縛
【欧州蹴球探訪|第10回】心地良いマインツの街で見た日本人ストライカーの憂鬱
最近のドイツ上空は分厚い雲で覆われている。今夏は例年になく晴天が続き、10月に入っても気温が30度近くまで上昇する日が多かったのに、今ではめっきり太陽が拝めなくなっている。すでにドイツでの生活が10年を過ぎた長谷部誠(フランクフルト)に聞くと、「今年が異常気象なんですよ。これから冬にかけてのドイツは、暗くて寒い天候が続きますよ」という。なんとも憂鬱である。
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11月4日、日曜日。フランクフルトから鈍行列車で約40分の距離にあるマインツで、大迫勇也が所属するヴェルダー・ブレーメンの試合が行われていた。
マインツは川下りの観光で有名なライン川と、フランクフルト市内を横に貫くマイン川の合流地点にある都市だ。知り合いに聞くと、ここにはドイツ国内でも屈指の様式美を誇るマインツ大聖堂という観光地があるそうだが、まだ行ったことがない。すでに4度ほどこの街を訪れているのに、自分が知っているのは街の東側に位置する中央駅と、地図上では街の中心にありながら整地されずに荒れ地と化している場所に立つ、ブンデスリーガ1部に所属する1FSVマインツ05のホーム、「オペル・アレーナ」だけだ。
その中央駅と「オペル・アレーナ」までは路面電車のトラム、もしくは市が運行する直通のシャトルバスくらいしか交通手段がない。徒歩で行こうと思えば軽く1時間はかかるであろう距離にあるスタジアムは外観が真っ赤に塗られ、それが広い荒野の真ん中にぽつんと位置しているから、遠目から見ると何かのSF映画で観た要塞都市のように思える。
マインツには昨季まで武藤嘉紀が在籍していたが、彼は今季からイングランド・プレミアリーグのニューカッスルでプレーしている。それでもこのクラブのスタッフは日本人にとてもフレンドリーで、「今日はブレーメンの選手を取材に来たのかい?」と言ってにこやかに微笑んでくれる。ドイツ人は無愛想で無表情なんて風評もあるが、こちらに来てからはそんな印象が消え去ってしまった。こちらが教えを請えば懇切丁寧に説明してくれるし、ドイツ語が通じないなら英語でなんとかコミュニケーションを取ろうとする彼らにいつも助けられている。
「ミックスゾーン(試合後に選手が記者の取材を受ける場所)はここだよ。右がホームチーム、左がアウェーチームのロッカールームへつながっているから、ブレーメンの選手を取材したいなら左の方に立っている方が良いかもね。でも、グッドラックなんて言えないよ。だってブレーメンは今夜の僕らの敵だからね(笑)」
少しの会話で清々しい気持ちになれる。なんて心地良い空間なんだろう。この街で、このクラブで、岡崎慎司(レスター/イングランド)は約2年間、武藤嘉紀は約3年間の時を過ごした。
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。