消えないスラブの血と 勝利への喝望/ズラタン・イブラヒモビッチ

 名実ともに、今や彼がPSGの絶対的リーダーであり、ボスであるのは疑いなき事実だ。もちろん、彼の専制君主的態度におびえ、陰口を叩いていたチームメイトがいなかったわけではない。しかしそれらの小者たちがクラブを去った今、イブラが仲間に慕われ、敬意を受けていることは、試合中の彼らの振る舞いを見ていれば分かる。それは、彼が単なるいばり散らす男ではなく、誰よりも勝負に真剣で、誰よりも労力を惜しまず戦う選手だからなのだ。

 そして言うまでもなく、イブラはプレーで魅せる。得意技のひとつに、飛び蹴りとも呼ぶべきアクロバティックなゴールがある。今季にもカンフーキック風に決めた一発があったが、彼が最初にフランス国民の度肝を抜いたのは、昨年10月の対マルセイユ戦で『後足蹴り』ゴールを披露したときだった。

 CKからのクロスボールを、ゴールにほぼ背を向け、動物が後足を突き出すようにして決めたのである。イブラがテコンドーの黒帯だということは知られているが、これこそが格闘技の蹴り技修行の賜物と思わせる、見事なバランス 感覚とスピードの産物だった。 両足を同様に器用に使ってどんな体勢からでもシュートを打ち、瞬間的に莫大なパワーをボールに伝えることのできる彼の強さは、天性の才だけでなく、テコンドーの修行から来る、と見る向きが多い。

 また、30歳を超えても連戦を余裕でこなし、怪我が少ないのは、日ごろから練習と体の管理に余念がない彼の「並外れたプロ精神のおかげだ」とイブラを指揮した監督たちは断言する。その分、仲間への要求も高く、選手交代を拒否することすらある彼だが、それでも皆が彼を受け入れているのは、イブラが誰よりも「やることはやる」男だからに相違ない。

 そして彼を駆り立てている勝利への渇望と怒りは、いまだ鎮まるところを知らないように見えるのだ。

【ズラタン・イブラヒモビッチ/Profile】 1981年10月3日、スウェーデン生。6歳の時にサッカーを始め、95年マルメFFと契約してキャリアをスタート。2001年アヤックスで優勝、04年にユベントスに移籍し、スクテッド獲得に貢献。06年インテルに移籍、08-09シーズンはセリエAで4連覇を達成し、自らも得点王に輝く。09年バルセロナに移籍するもグアルディオラ監督との確執により、1年でACミランへ。12年、パリSGに移籍し、19シーズンぶりの優勝に貢献した。気性が荒く、ピッチ内外でトラブルを起こすが、能力は世界トップクラスのFWである。

 文:木村かや子

写真:渡辺航磁

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