浦和ペトロヴィッチ体制の功罪 「楽しむ」哲学が生んだ爆発的な攻撃力と大一番の脆さ

勝負どころで露呈し続けたナイーブさ

 就任2年目の13年はヤマザキナビスコカップ(現ルヴァンカップ)の決勝で柏レイソルに0-1で敗れ、14年はリーグ優勝まで「あと1勝」と迫りながら、ラスト3試合で1分2敗とまさかの失速。2ステージ制になった15年はファーストステージを無敗で制しながら、チャンピオンシップ(CS)の準決勝と天皇杯の決勝でガンバ大阪に敗れた。そして昨季はセカンドステージ優勝、ルヴァンカップ優勝という成果を出しながら、CS決勝で鹿島アントラーズに敗れ、またも06年以来となる年間優勝を逃した。

 リーグ戦の何か大きなものが懸かっていない試合では伸び伸びとサッカーを楽しみ、鮮やかな攻撃でゴールを量産して勝っていく強さを見せた。しかし、タイトル獲得という重圧がかかり、「楽しむ」とはなかなか言っていられない局面では、武器である連動性も希薄になってしまった。

 リスクを負って攻めることで、より大きなリスクを避けてきたチームが、その最初のリスクを負えなくなっていく。内容にこだわり、チームの中身とでも言うべきものを整備していったが、その表面に出るもの、主要タイトルという結果を求められた時にナイーブさを露呈し続けてしまった。

 ペトロヴィッチ監督はしばしば、「結果から逆算してものを言うのではなく、内容をしっかり見てほしい」との言葉を残した。かつての浦和には希薄だった「楽しむ」要素を持ち込んだことで、チームは確かに息を吹き返した。しかし、そこから「やっていることの正しさを結果で証明する」ためのステップにおいては大きな成果を残せず、ペトロヴィッチ監督のメンタル面でのアプローチによる功罪は、こうした形で表れていた。

【了】

轡田哲朗●文 text by Tetsuro Kutsuwada

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

 

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