森保監督が気づいた異変「おばちゃんはどうしたの?」 大手術から6年…“広島の母”に届けた1勝

ベネズエラ戦のバックスタンドで“広島の母”が見守った
森保一監督率いる日本代表は9月・10月シリーズを4連勝で終えた。森保監督にとって国内ラストの4連戦。なかでも9月28日、エディオンピースウイング広島で行われたベネズエラ戦(2-1)は特別な一戦だった。第二の故郷で繰り広げられた熱戦。バックスタンドの“親”へ届けた1勝だったーー。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
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土砂降りの雨の中、スーツ姿で小さく微笑んだ。ゴール裏からこだまする「森保ニッポン」コール。指揮官は南米の難敵ベネズエラ相手に掴んだ勝利の味を噛み締めた。「ここ広島で約30年生活をさせていただいて、人としてサッカー選手として指導者として育てていただいた。試合前後もたくさんサポーターの皆さんに声をかけていただき、本当にありがたく嬉しい気持ちです」。日本代表の監督として凱旋した2度目の広島開催。超満員、約2万8000人の大声援はいつまでも耳に残った。
2018年に日本代表監督に就任して丸8年。2度ワールドカップ(W杯)に出場し、A代表に招集した選手は全員で171人に上る。来年1月に開催されるアジアカップで任期を終える指揮官にとって、ラスト広島。森保監督らしく、日本サッカーの未来を見据えた若手とベテランを融合させた采配で逆転勝利を掴み取った。
見てほしい人たちがいた。高卒でマツダに入団して約40年。家族ぐるみの付き合いを続けてきたのが“広島の親”である沖本夫妻。20歳の頃から通いつめる理髪店の店主・静夫さん、妻の玲子さん。多忙な森保監督に代わって、3人の息子たちと遊んでくれたり、庭でのバーベキューに誘ってくれたり、広島時代の支えだった。だからこそ決めていた。広島のラストマッチに招待する。その時、森保監督の妻・由美子さんから一言かけられた。
「席はバックスタンドがいいんじゃない?」
ベンチと反対側。最前列で見守った玲子さんは「ここからやと森保さんの姿がよく見える」と目を細めた。「本当にね、今日ここに来られて良かった」。その言葉の意味は6年前の出来事を指していた。
2020年9月28日、玲子さんは病院にいた。がんの手術を受けるため。突然の病の知らせに「もうね、もしかしたら……とも思った」という。そのことを森保監督には知らせなかった。手術の前日、10月に日本代表の活動を控えていた指揮官に、広島の仲間たちが直接エールをくれた。その時異変を感じた。「あれ? いつも一番に気にかけてくれるおばちゃんの声が聞こえない」。周囲に問いただした。「おばちゃんはどうしたの?」。真実を知った。周りに伝えたのは「絶対に会いに行きたい!」。でも当時はコロナ禍。面会禁止で不可能だった。それならば……無心にペンを走らせた。色紙に書いた激励の言葉。数時間に及んだ手術は無事、成功した。
あれからちょうど6年。森保監督はバックスタンドで見守った玲子さんに“ラスト広島”の90分を届けられた。
「本当に大変な手術だった、と聞きました。当時は、色紙にもなんて書いたらいいか。『負けるな』とは書かなかった。闘っていたのを知っている。『待っているね』というような感じだったと思います。試合に来てもらえて良かった。おばちゃん……あ……玲子さんと呼ぼうとしているんですけど、本当に昔からお世話になっているから、おばちゃんと呼んじゃうんです。私にとって広島の親。息子たちにとったら育ての親と言えるぐらい。それぐらい大切な人です」
届けた勝利、受け取ったエール。両者の想いが交わった広島の夜だった。
(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)

















