佐野海舟「複雑な感情でサッカーをしていた」 プレミア移籍消滅の無念…誓う成長「数字が必要」

敵地ハンブルガーSV戦後、今夏の移籍に言及
この夏、日本代表MF佐野海舟に関するプレミアリーグを含めた移籍の噂でメディアはにぎわっていた。ここ2シーズン、マインツでの活躍に加え、ワールドカップ(W杯)でもその評価を高めている。ドイツ紙では「移籍市場額は6000万ユーロ」と取り上げる報道もあり、今夏の移籍市場で注目を集める選手の一人だった。
ただ最終的に移籍は実現せず、佐野はマインツで引き続きプレーをすることに。移籍市場が閉まり最初の試合となったアウェーでの第2節ハンブルガーSV戦後、佐野は丁寧に自身の思いを言葉にしてくれた。
「正直、ここ数週間は自分として結構、複雑な感情でサッカーをしていました。でも、ピッチに入ったら、しっかりやるべきことをやらないといけないと思いますし、自分自身がもっと評価を高めないと、結局はダメだと思っています」
W杯を経て次のステップに進みたい思いが募っていたことは自他ともに認めるところ。より高いレベルへの挑戦を望む気持ちが芽生えるのは自然なことだ。プレミアリーグという言葉も日独メディアで出てきていたことについては、正直に答えている。
「狙っていましたし、チームにもそういう気持ちは伝えていました。ただ、自分一人ではやっぱり。移籍というのはタイミングというのもあると思いますし、いろんなモチベーションだったり、気持ちを感じながら、ここ数週間サッカーをしていました。ただここに残った以上は、しっかり自分のできることを考えてやっていく必要がある。1日も無駄にできないと思います」
今季に懸ける強い意志が込められていた。移籍できなかったことを引きずるのではなく、残った場所で自分の価値をさらに高める。このハンブルガーSV戦は、まさにその第一歩。そしてその試合で攻守に存在感のあるプレーを披露し、マインツは5-0の快勝を収めた。
「今はしっかり頭も整理できていますし、この日々を無駄にすることはできないと思っています。環境は言い訳にならないですし、自分のやるべきことをしっかりやり続けていきたいです」
終わったことにとらわれるのではなく、やるべきことを整理して、取り組むべきことに向き合う。今回は望むような展開にはならなかった。だが、それが自身の成長にマイナスになってはならないことを、佐野はよく分かっている。むしろ、次により大きなチャンスを掴むためには、今いる場所で結果を出し続けるしかない。
「自分の評価をもっと高めたい」という言葉には、そんな実感が込められている。
「やっぱり、もっと評価されないといけないというのは感じています。今できているプレーに付け足して、結果の部分、もっと数字で目に見える結果というのが必要になってくる。しっかりゴールもアシストも取れる選手になりながら、自分のベースである守備の部分については、毎試合基準高くやる必要があるかなと思っています」
ハンブルガーSV戦ではその言葉通り先制ゴールをアシストしてみせた。相手DFのビルドアップから中盤選手へのパスに対して、出足と読みの鋭さで相手ボールをインターセプトすると、フリーで抜け出したFWジェラルド・ベッカーに綺麗なスルーパス。守備でボールを奪い、そのまま攻撃につなげる。持ち味が凝縮された場面と言える。
「いい形で奪えました。守備でしっかりコンパクトにやれていたからこそ、ああいう形につながったと思います。奪ったあとも近い距離感で味方選手がたくさんいると、いい攻撃にもつながる。ああいう形をどんどん増やしてやっていければいいかなと思います」
それ以上にこだわりを感じさせたのは、得点への意欲だ。25分、相手陣内でのルーズボールに素晴らしい反応からダイレクトでナディム・アミリへパス。そこからのこぼれに再び鋭く反応すると、そのままペナルティーエリア内へドリブルで持ち込み、折り返しのパスを狙った。惜しくも味方には届かずも、一連の流れには見事なものがあった。ただ、ここに反省の色をにじませていたのが印象深い。
「そうですね(シュートが)打てたと思います。そこは修正するところかなと思います」
そして、より高い評価を受けられる選手になるためには、単に個人の数字を伸ばすことだけでは足らない。マインツで中心選手として責任感をもってチームを引っ張り、結果を残し、チームをより高い順位へ導く。その中で自分自身の価値も上げていくことが求められている。
「なるべく高い順位で終える。それに越したことはないと思います。その中で自分のプレーの質にもこだわり続けて、それが直接的にチームの結果に結びつくくらいの責任感や覚悟というのを見せながら、やっていきたいなと思います。チームからの信頼だったり、求められていることというのは、日々高くなってきています。自分自身ももっと成長できる部分というのは絶対にあると思います」
マインツでは3シーズン目となり、中心選手としての自覚は確実に芽生えている。だからこそ、チームの結果にも責任を担わなければならないし、ピッチでその思いと覚悟を示さなければならない。
「自分としても、今日の試合からしっかりやっていかないといけないと感じていました。少しは示せたのかなと思います」
揺れた夏を終え、佐野はマインツに残った。マインツをより高い順位へ導くために、そして自身のさらなる成長のために、1つひとつの試合、一日一日の積み重ねがこれまで以上に重要になる。あらゆる経験を糧に、佐野は今季も走り続ける。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。






















