監督から贈られた「バカやろー!」の愛情 昇格組から神戸へ…誓う成長「フワッといる選手になりたくない」

千葉に10年在籍した高橋壱晟が神戸移籍を決意したオールスターの光景
どうしても本人に聞きたかった。今夏、多くの移籍があったなかでも最大級の驚きだったDF高橋壱晟のジェフユナイテッド市原・千葉からヴィッセル神戸への移籍だ。クラブの状況を見れば、J1に昇格したばかりのクラブからJ1優勝争いの常連への移籍という、当たり前といえる移籍だ。
とはいえ、高橋の場合は青森山田高を出て、初めて加入したプロクラブが千葉であり、それから10年にわたって籍を置いたクラブが、ようやくJ1で戦うという権利を得たばかり。チームの核となる選手の一人であり、実際に右サイドバックを失った千葉はちばぎんカップから第2節までは3バックを採用した。自身の退団がどれだけのインパクトをクラブにもたらすかも、わかっていたはずだ。
2-2で引き分けた8月16日のJ1第2節FC東京戦で、DF酒井高徳の負傷を受けて途中出場からJ1デビューを果たすと、第3節の横浜F・マリノス戦でも先発出場した。対峙する同じ青森出身の16歳FW三井寺眞に決勝ゴールを許す、苦い0-1の敗戦を喫したあとのミックスゾーンで思いを聞いた。
酒井に加え、FW大迫勇也、FW武藤嘉紀ら、先発6人を入れ替えた横浜FM戦を振り返り、高橋は「最初は硬かったですね。でも、慣れていくと思うし、だんだん自分のプレーも出して行けるようになると思う。ただ、主力選手がいないなかで、勝てなかったので、そこが凄く悔しいです」と口にした。
プレシーズンのキャンプを千葉で過ごした高橋は、ほぼぶっつけ本番の状態で初のJ1に臨んでいる。その難しさについて、「ありますよ、それは」と認め、「まだ3週間。実際に大迫選手とかのいるスターティングメンバーと(練習を)やる機会がほとんどないなかで試合に出て、だんだんやりながら整理していく感じだったんですけど……。そのなかでもできるようにしなきゃいけないし、それだけの戦術眼、チームのやっていることを見極めないといけないと思います」と、開幕直前に移籍した難しさを口にした。
スキッベ監督からの指示も「あんまり言われていないんですよね」と言い、「何を求めるかではなく、できるなかでいろいろ合わせる監督だと思う。なかで選手がつくっていくというか。だからやらなきゃいけないこと、できるようにならないといけないことを、当てはめながらやっていました。個人のフィードバックはなくて、チームへのフィードバックがある感じですね。逆に言うと自由。僕が何をやっても、成功すれば許されるような環境にはあるので、僕が思い描いているモノとチームが狙いとしていることをうまく合わせながらやれればいいなと思っています」と、新天地に溶け込むために意識していることを説明した。
神戸の選手と言えば、個々のレベルがJ1でもトップクラスの選手の集まりだ。日常の練習からそんな選手たちと対峙するなかで、「スキルもそうだし、自分で判断して自分で解決する能力が違うと思う。それはスキルだけじゃなくて、身体能力を含め、自分で解決できる能力が高いかな」と、これまでの日常から、より高いレベルの日常に身を置くなかで感じたことを言葉にした。
高橋にとっては、まだ中盤でプレーしていた2019年にモンテディオ山形へ期限付き移籍して以来となる移籍だ。今オフにも一緒にトレーニングをしていたという酒井に、高橋は助けられていると言う。
「来たからには、塾生ながら、塾長を抜きたい」と、ロッカーも隣だという酒井高徳越えを目標に掲げ、「(試合に)出ようが、出まいが、いろんなことを教えてくれるので、そこは学びながら、僕はより大きくなれるように、やっていきたいなと思います。本当に良い環境だし、それを求めて行ったので」と、移籍を決断した理由に触れた。
千葉でJ1を戦える。数年前まで、間違いなく高橋が目標としていた状況だったはずだ。それを捨ててまで、何を求めたのか。そう聞くと高橋は「進化ですよね」と言い、きっかけとなった日についても明かした。
「ジェフにいる居心地の良さを、捨てて……。もう10年もいたので、それを捨ててまで、挑戦しないといけないと、特にオールスターで思ったんです。だから、捨てたというか、見ないようにしました」
6月13日、17年ぶりに開催されたJリーグのオールスターに、高橋は出場していた。J1のトップ選手たちと過ごした短い時間で、感じたことは多かったのだろう。それは、サッカー選手としてこのままでいいのかという危機感と言えるのかもしれない。神戸からのオファーが来たと知った高橋は、それを千葉の誰にも相談することなく、移籍を決める。相談すれば、千葉のことを見てしまえば、決意が揺らぐと理解していた。
シーズン前のプレスカンファレンスの時、DF鈴木大輔は「相談はなかった」と明かしていたが、高橋は「誰にも相談はしなかったです」と言い、移籍決定のプレスリリースが出た28日の前日、新シーズンへ向けた決起集会のような場に、複雑な胸中で参加していたと明かした。
「発表される前日に、ジェフのバーベキューがあったんです。僕、それに出ていたんですけど、(移籍することを)誰にも言わないで行っていたんです。家族も参加できるようなバーベキューで、どの選手も家族がいて…。僕は『この光景を見るのも最後だな』って思いながら、泣きそうになっちゃって……。(小林慶行)監督にも挨拶に行けなかったです。行ったら、やっぱり情が出てくるって思って。最後、リリースが出てから挨拶に行きました」
実は小林慶行監督は、このバーベキューのタイミングで高橋が移籍することを知っていたという。リリースが出てから高橋が挨拶に行った時、小林監督からは「バカやろー! ふざけんな!」と言われたという。高橋自身も、小林監督の気持ちは痛いほどわかっていたはずだ。
「だから、僕はこのチームで、ただフワッといてという選手にはなりたくない。ACLEを含め、60試合くらいあるから。そのなかで、僕ができることをやる。未知の世界に行くと思っているので。試合が60試合あることも、アジアの遠征もあることも。そういうのを含めて、成長できる1年にしたい」
千葉に残っていたとしても、決して簡単な1年にはなっていなかっただろう。それでも、自身の進化を信じて、より高いレベルのに身を置くことを選んだ移籍。この決断を正解にするためにも、高橋は神戸で結果を出して、大きな飛躍を遂げなければならない。
(河合 拓 / Taku Kawai)



















