「スペインになりたい」では到底無理 “輸入”から20年…W杯でたどり着いた「完成品」

クライフが持ち込んだアヤックスのサッカー
森保一監督が将来の日本代表について「最終的にはスペインのように、ボールを握りながら局面でも勝っていくチームを目指していくべき」と発言していた。
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スペイン対アルゼンチンの決勝が行われた時の発言なのでこうなったのだろうが、ただちに日本代表がスペインを目指すべきという話ではない。日本代表の今後の強化方針も「継続」を重視している。当面スペインを目指してどうこうということではないだろう。
日本が現在の路線で強化していって、ある日突然「スペイン」になることもありえない。そのへん代表の強化担当者は重々承知しているだろうが、ファンが「日本はスペインを目指している」と勘違いしないように、老婆心ながら釘を刺しておきたい。
スペインの特徴は「1対1の強さ」ではなく「1対1にしない強さ」だ。
複数対複数の局面での上手さである。サッカーが1対1の集積ならば、準決勝でスペインはフランスに負けている。11対11のゲームでいかに勝つか、その方法としてスペインのプレースタイルには優位性があるわけだ。
個と個の戦いで相手が有利でも、グループ対グループなら優位に立てる。このプレースタイルが確立されたのは2008年だった。スペイン代表が欧州選手権優勝で久々のメジャータイトルを獲得し、ペップ・グアルディオラ監督に率いられたバルセロナが黄金時代を迎える年である。
W杯過去5大会で「バルセロナ」が3回優勝している。
2010年と2026年のスペインのほかに、2014年のドイツも「バルセロナ」の影響が強かった。当時、バイエルンを率いていたのがグアルディオラ監督で、ドイツ代表はそのやり方を採り入れていた。5大会で3回優勝は、このプレースタイルの強さを表している。
1988年にオランダ人のヨハン・クライフがバルセロナの監督に就任。アヤックスを率いた時の戦術を持ち込んでいる。当時のスペインでは極めて異質だった。しかし、20年後の2008年にグアルディオラ監督がクライフの持ち込んだプレースタイルを完成させ、ほぼ同時にバルセロナの選手たちを軸としたスペイン代表も同じサッカーに行き着いた。最初は異色だったが20年かけて実績を積み上げ、スペインのスタイルとして吸収したわけだ。
つまり、現在のスペインのサッカーはオランダ(アヤックス)からの輸入なのだ。
2010年にスペインが優勝すると、そのスタイルを採り入れようとするチームが現れた。ドイツはそれで14年W杯に優勝、イタリアも2021年欧州選手権で優勝。スペイン化は成功したかにみえたが、その後の両国は自らのアイデンティティを失って低迷してしまっている。クラブチームもバルセロナの成功をみて、いくつものクラブがバルサ化を図ったがことごとく失敗に終わった。
同じ戦術輸入なのにスペインだけが上手くいった理由は、バルセロナを持っていたから。
たんに20年かけて1つのモデルを完成させただけでなく、バルセロナは育成からトップチームと同じプレースタイルの下で、そこで活躍できる選手を育成してきた。そのためバルセロナでは凄かったのに、他へ移籍するとそうでもないという事例もけっこうあった。それでも戦術ファーストの育成を続けてきたのは、これが我々のサッカーという自負があったから。戦術がアイデンティティ。そしてバルセロナからスペイン全土へ浸透していった。
代表と同じサッカーをするビッグクラブがあり、多くの代表選手はそこで毎日トレーニングしている。この条件があってこそ11対11のサッカーであの練度を出せている。
クライフが38年前に示したデッサンの魅力、論理性もさることながら、そこに色をつけ、修正を繰り返して完成させるにあたり、他にない条件が重なったのが大きい。
完成品を見ると「こうあるべきだ」と思うかもしれないが、実際に完成させられたのはスペインだけという事実はけっこう重く、スペインのようになりたいと思うだけでは到底なりようがないのだ。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)

西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。




















