イングランドが解いた「呪い」 過去に1-7悲劇も…英国から急行「俺が行って負けるほど」

北中米W杯に挑むイングランド代表【写真:ロイター】
北中米W杯に挑むイングランド代表【写真:ロイター】

イングランド対ノルウェー戦にミック・ジャガーの姿があった

 その瞬間、世界中のイングランドサポーターの背筋が凍ったはずだ。怪物ハーランドより怖いかもしれない、ミック・ジャガーだ。マイアミのハードロックスタジアムでの準々決勝イングランド対ノルウェー戦、ベッカム、デルピエロ、カカ、ロベカル……、レジェンドがズラリと並ぶスタンドに、ローリング・ストーンズのフロントマン、ミックの姿があった。

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「ミックの呪い」。サッカー界では有名だ。2010年南アフリカ大会は決勝トーナメント1回戦から観戦し、アメリカ、イングランド、ブラジルと応援した3チームが次々敗退。2014年大会ではカナリア色のユニフォームを着た息子と地元ブラジルを応援したが、準々決勝で1-7とドイツに歴史的な大敗。さらに、2018年ロシア大会では52年ぶりに準決勝に進んだイングランドの応援に駆け付けたが、クロアチアに逆転負けを喫した。

 前回のカタール大会こそ「目撃情報」はなかったが「応援するチームが負ける」ジンクスは健在。今年5月末にはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)初優勝を目指した大好きなアーセナルを決勝の行われたブダペストで応援。先制点に歓喜したが、結局パリ・サンジェルマンに追いつかれ、PK戦負けしてタイトルを逃した。

 相手チームのユニフォームを着せたミックのパネルがスタンドに持ち込まれるほど「呪い」は世界的に定着している。もちろん、本人も分かってはいる。ブラジルが1-7と大敗したときは、騒ぐメディアに「最初の1点は俺のせいでも構わないけれど、その後の6点は知らない」と半ばあきれ顔で話した。

 ストーンズは7月10日、25枚目のアルバム「Foreign Tongues(フォーリン・タングス)」を世界同時発売。発売イベントが終わると、ミックはロンドンからマイアミに急行した。現地報道によれば「呪い」を心配する声に「俺が行って負けるほどケインたち選手は弱くない」と言ったという。

 82歳の期待通り、イングランドは勝った。先制点を許しながらもベリンガムの2得点で逆転。ハーランドの負傷交代に救われた感もあったし、終盤は相手の猛攻にもあった。それでも、最後は2大会前の準決勝、初優勝を目指した2年前の欧州選手権(EURO)決勝でともに敗れた「7月11日」の呪縛も解けて逃げ切り。イングランドファンも胸をなでおろしたことだろう。

 もちろん、ミックが観戦した試合すべてに負けているわけではない。それでも、大事な試合、ここ一番で敗れたスタンドに姿があった。その多くが終了間際の失点やPK戦でショッキングな負けになるから「呪い」として注目された。

 ワールドカップ(W杯)には様々なジンクス、呪いがある。「直近のバロンドール受賞者は優勝できない」「FIFAランク1位の国は負ける」「自国の監督以外では優勝できない」……。説明が難しい「ペレが優勝予想した国は勝てない」「マラドーナの前ではメッシは輝けない」など都市伝説的なものもある。「ミックの呪い」はペレやマラドーナのジンクスに近い。

 マラドーナは2020年に60歳で亡くなり、ペレは前回大会直後に82歳で天国へと旅立った。もう彼らのジンクスが恐れられることはない。「ミックの呪い」も、そろそろ解けてもいいころだったのかもしれない。

「呪い」が解けたイングランドは、1966年地元大会以来60年ぶりに優勝を目指し準決勝でアルゼンチンと対戦する。マラドーナの神の手、ベッカムの退場、何度も苦杯をなめてきた因縁の相手との一戦は世界中が注目する。もちろん、ミックも。60年以上ロック一筋に「満足できない」と歌ってきたサッカーファンのためにも、母国は2度目の優勝を目指す。

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荻島弘一

おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。

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