英ア激突で蘇る因縁「母国の兵士たちのための復讐戦」 伝説の5人抜きと世紀の誤審「神の手が少し」

アルゼンチン代表で活躍したディエゴ・マラドーナ【写真:Maurizio Borsari/アフロ】
アルゼンチン代表で活躍したディエゴ・マラドーナ【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

フォークランド紛争の傷跡残る1986年 極限の緊張感に包まれたアステカの死闘

 FIFA北中米ワールドカップ(W杯)準決勝という極限の舞台で、世界のサッカーファンが熱狂するカードが実現した。イングランド対アルゼンチン。過去5戦してイングランドの2勝に対し、アルゼンチンが3勝で一歩リード。両国の対戦は、単なる強豪国同士の激突という枠を完全に超え、因縁で渦巻く物語で彩られている。

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 1966年の「野獣発言」から20年。1986年メキシコ大会の準々決勝で、イングランドとアルゼンチンは再び相まみえた。

 この試合は、過去の因縁以上に重く、暗い影を落としていた。わずか3年前の1982年、両国の間では「フォークランド(マルビナス)紛争」という現実の武力衝突が起きており、両国民の敵対心はスポーツの枠を完全に越えていたのだ。「母国の兵士たちのための復讐戦」。そんな異様な空気のなか、アステカ・スタジアムのピッチで一人の天才が伝説を創り上げる。

 スコアレスで折り返した後半6分、イングランドMFスティーブ・ホッジのキックミスで生まれたゴール前の浮き球に、アルゼンチンの絶対的エースFWディエゴ・マラドーナが鋭く反応する。

 飛び出してきたイングランドGKピーター・シルトンよりも先に宙を舞ったマラドーナは、頭の横に添えた左手でボールをパンチングするように弾き、ゴールネットを揺らした。あからさまなハンドにイングランドの選手たちは猛抗議したが、一瞬の出来事を把握できなかった主審はゴールを認定。試合後、彼自身が「マラドーナの頭が少しと、神の手が少し」と語ったこのプレーは、のちにFIFA自らが「世界10大誤審の第1位」に認定する“世紀の誤審”となった。

 怒り狂うイングランドをあざ笑うかのように、神の子はわずか4分後にサッカー史上の最高傑作を生み出す。

 自陣中央でボールを受けたマラドーナは、そこからおよそ60メートルにわたるドリブルを開始。迫り来るイングランドの選手5人を次々と無力化し、最後はGKシルトンまで抜き去ってゴールに流し込んだのだ。

 極限のプレッシャーのなかで生まれた、伝説の「5人抜き」。のちに“ゴール・オブ・ザ・センチュリー”と称賛されるスーパープレーと、“神の手”という反則が同居したこの90分間は、マラドーナという規格外の存在を世界に見せつけると同時に、イングランド人に「決して許すことのできない男」という拭い去れないトラウマを植え付けたのである。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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