エリート街道絶たれ「自分のせい」 下級生と練習の屈辱…日本代表が起こした“20cmの奇跡”

インタビューに応じた日本代表の渡辺剛【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
インタビューに応じた日本代表の渡辺剛【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

160cmの少年を襲った取り残される“恐怖”

 北中米ワールドカップ(W杯)開幕まで残りわずか。日本と初戦で対戦するオランダで研鑽を積む日本代表DF渡辺剛はさまざまな挫折を乗り越えてここまで辿り着いた。名門フェイエノールトの最終ラインで、牽引する屈強なセンターバック(CB)。だが、たどり着くまでの道のりは決して平坦ではなかった。FC東京の下部組織からユース昇格を果たせず。名門・山梨学院高校から中央大学を経て“古巣”でプロキャリアをスタートさせた。「FOOTBALL ZONE」のインタビューでは苦しかった挫折について口を開いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全3回の1回目)

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 近代的な建築物が並び、美しいニューウェ・マース川が流れるロッテルダム。ヨーロッパの玄関口、最大級の港が街を彩る。川沿いで歩を進めながら、渡辺は「本当に最高の場所ですよ」と笑った。フェイエノールトへ移籍して1シーズン。北中米W杯への切符を掴み取り、渡辺にとっても充実した1年だった。

 始まりは、突然だった。埼玉県に生まれた渡辺少年は、小学3年生の時に親の「ちょっと電車に乗ってサッカーしに行くよ」という言葉に導かれ、FC東京のスクールへと足を踏み入れた。そこで才能を認められ、小学4年で難関のスペシャルコースを経てジュニアユースへと昇格。ここからエリート街道が待ち受けていると思っていた。

「中学校卒業時点で、身長は160センチ。当時はフォワードをやっていたんですけど、5、6年生ぐらいからかな、ちょっとずつ能力が足りなくなってきた。中学に入るとポジションも下がっていって、3年生の時は全く試合に出られなかった」

 ユース昇格を目指した運命の歯車は音を立てて狂い始める。周囲の選手たちが次々と身体を大きくし、技術やスピードを身につけていく中で、後れをとるようになっていった。エリート集団の中で、自分だけが取り残される恐怖。渡辺はボランチやサイドバックで活路を見出そうと必死に足掻いた。だが、現実は非情だった。中学3年生でありながら、1年生の練習に混ざる屈辱。ユース昇格の夢は途絶えた。

運命を変えた1枚の紙と、高校1年で訪れた“20cm”の贈り物

「技術もなかったし、とにかく細くて、フィジカル負けがあった。ユースに上がれないと告げられた時、怒りや悔しさよりも先に『あ、そりゃそうだよね』って。その時FC東京の強化担当から『高校はどこに行きたい? 3つ候補を出して』と1枚の紙に書いてくるよう言われたんです」

 提示された、進路希望の3択。「そんな強くなくて自分が試合に出られそうなチームを選ぼうかな」。2つ目までは無難な高校を埋めた。だが、最後の1つが決まらない。その時、ふと脳裏をよぎったのが、全国制覇を成し遂げたばかりの「山梨学院」の文字だった。

「興味本位で書いたんですよ。そしたら『セレクションに行ってみよう』となって。でも、そこでもプレーでアピールできたわけじゃないんです。後から聞いた合格の理由は『優勝した時のムードメーカーに似ていたから』。技術は足りないけど、とにかくうるさくて、全力で自分を出そうとする姿がいい、と(笑)。プレーじゃない理由で受かった。でも、それが僕の人生の扉を開けた」

“弱気な少年”を救った1枚の紙と、一筋の直感。ただ、合格はしたものの、山梨という土地も、寮生活の厳しさも、何も分かっていなかった。「ちょっと遠いところに練習に行く」くらいの感覚でいた渡辺を待っていたのは、想像を絶するほどタフな世界だった。

 親元を離れ、四六時中サッカーと向き合う日々。そこは全国から猛者が集う、実力至上主義の聖域。そしてここで、神様からの“贈り物”が届く。止まっていた身長が、怒涛の勢いで伸び始めたのだ。

「高校1年で一気に20センチ伸びました。そこで監督から『センターバックをやってみようか』と。そしたらコンバートされてすぐ、ヘディングだけは誰にも負けないという自信が湧いてきた。高校1年の後半には、うっすらとですけど『プロを目指したい、なれそうだな』と感じ始めていた。根拠なんてなかったけど、マインドがポジティブに変わっていったんです」

理不尽を越えて掴んだポジティブマインド

 身体の成長とともに、渡辺の精神もまた、鋼のように鍛え上げられていった。当時の山梨学院の寮生活は厳しかった。その分、メンタル強化にフォーカスできた。

「親元を離れて寮で生活することがタフだったと今でも思う。でも、寮生活で仲間と助け合いながらサッカーをやる、ワンチームのような感覚を初めて感じた。きついと思う時期もあったけど、一度もサッカーを辞めたいとは思いませんでしたし、周りがいたからそういう気持ちには全くならなかった」

 かつて160センチのフォワードとして自信を失い、ユースに上がれなかった少年の姿はもうどこにもなかった。身長180センチを超え、最終ラインから咆哮し、身体を張ってゴールを守る“要塞”へと変貌を遂げていた。

「能力がない自分のせいだったけど、中3の時に中1と一緒に練習させられたり、そういうことに直面してメンタル的にも折れかけた。でも高校でしっかり認めてくれる人がいると気づけた時に自分が一番自分を信じてあげなきゃな、というのは改めて気づけた」

 挫折は、終わりではなかった。それは、より高く飛ぶために必要な“溜め”の期間だったのだ。山梨の地で手に入れた最強の武器「折れない心」と「CBとしての天命」。この2つを携え、再び大きな夢に向かって歩みを進めた。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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