声荒げ号泣「思っているわけないだろ!」 鈴木唯人の”分岐点”…恩師が確信した飛躍「これで変わると」

日本代表の鈴木唯人(高校時代)【写真:安藤隆人】
日本代表の鈴木唯人(高校時代)【写真:安藤隆人】

鈴木唯人とのやり取りを明かした市立船橋サッカー部の波多秀吾監督

 2019年、高校3年生になった鈴木唯人に、市立船橋サッカー部の監督1年目の波多秀吾は10番を与えた。複数のポジションをこなしながら、鈴木はチームのエースとして技術レベルの高さを見せていたが、チームはプレミアリーグEASTで思うように勝ちを掴めずに順位は低迷。プリンスリーグ関東降格も見えてくるようになった。(取材・文=安藤隆人/全4回の2回目)

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 勝ちきれない、やりきれない。インターハイ予選も準決勝で敗れて全国を逃し、厳しい夏合宿を経てもなかなかチームにまとまりが生まれない。そんな中、鈴木にとっても、チームにとっても大きなターニングポイントとなるプレミアEAST第13節の柏レイソルU-18戦を迎えた。

 2019年9月15日、ホームである船橋法典公園(グラスポ)球技場で行われたこの一戦。チームは後期開幕戦の大宮アルディージャU18戦を0-0で引き分け、その次の浦和レッズユース戦を0-1で落として迎えた試合だった。

「夏合宿でキツイ練習をみんなでこなして、『後期は一丸となって』という思いで臨んでいたのですが、前期よりサッカーの質は上がっているのに、結果がついてこない、戦いきれないというモヤモヤがチームの中にあったんです。この試合が後期ホーム開幕戦だったので、『ここでしっかりと勝って流れを変えよう』と話をして気合を持って臨んだのですが…」

 結果は1-4の大敗。後半10分と12分に立て続けに失点をし、直後に1点を返すも、終盤に2失点を喫してしまった。

 タイムアップの瞬間、市船イレブンとベンチは静まり返った。下を向いままベンチに戻ると、その中で試合終了後からずっと号泣していた当時唯一の2年生スタメンだったCBの石田侑資(現・京都サンガ)が静寂を打ち破った。

「なんでみんなやらねぇんだよ!!」

 響き渡る2年生の悲痛な叫び。鈴木をはじめ3年生たちは下を向いた。

「石田は試合の時からみんなを鼓舞する声を出していたし、奮闘していた。その姿を見ていたので、彼が思いを爆発させることは理解できたんです」

 波多はすぐに全員を集めて、「石田、言いたいことがあるなら言っていいぞ」と促した。

「もっと戦う姿勢を見せてほしい。こんな負け方していていいのかよ。試合に出ている3年生から戦う気持ちが全然見えないし、もっと全力でやれよ!ここで変わらなきゃ意味ないぞ」

 石田の口からは辛辣な言葉が出たが、波多は黙ってその様子を見ていた。そして石田が思いを洗いざらい口にした後に、他の3年生にも「本音で話してくれ」と振ると、次々と本音と辛辣な意見が出てきた。

 その中で話の矢はずっと下を見つめていた鈴木に向けられた。「もっと唯人に引っ張ってもらいたいのに、自覚を感じられない」、「試合途中でどんどん運動量が落ちていく。それでもエースか」と厳しい言葉が続く。名前を挙げられても下を向いたままの鈴木に対し、波多は「お前はどう思っているんだ」と投げかけた。

「それでも唯人は下を向いたままで何も話さないので、正直『これじゃ埒が明かない』と思いました。でも、ここでそのままこの場を終わらせてしまったら、チームとしても遺恨だけが残ってしまうし、唯人にとってもここで本心を曝け出さないと成長しないと思った。それ以上に、僕自身が唯人の本心を聴きたくて、敢えて厳しい言葉をかけたんです。そうしたら…」

 その時、波多が鈴木にかけたのは、「お前は高校を出たらプロになるから、プレミアから落ちたり、選手権に行けなかったりしても何も問題ないよな?」と少し煽るような言葉だった。すると、これまで黙って下を向いていた彼は堰を切ったように泣きながら、怒鳴り始めた。

「そんなこと思っているわけないだろ!俺も一生懸命やっているよ!だったら、俺にFWをやらせてくれよ!!」

 大きな声が響いた。これまでの彼からは聞いたことがないような強い口調の叫び。波多自身も見たことがない姿に正直驚いたが、すぐに大きな手応えを感じたという。

「唯人が叫んだ瞬間、内容よりも『あ、喋ってくれた』と思ったんです。声を荒げた感じは初めてだったので、ちょっとびっくりをしたのですが、『それでいい』と思った。なので僕も一切感情的になることなく、会話ができたんです」

 喜びを隠しながら、冷静に「分かった。次の試合からFWでプレーしてくれ」と口にすると、まだしばらく話を続けようとする選手たちの輪から外れた。

「もうこれでチームが崩れることはないと思ったんです。これで唯人もチームも変わると確信できた」

 この言葉通り、この日を境にチームは見違えるほど一体感が増した。鈴木自身もいつもの黙々とプレーする姿は変わりなかったが、1つ1つのプレーの強度と献身性は増し、チームは一気に飛躍の時を迎えた―。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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