優勝オッズ2トップに迫る国「今度こそ」 波紋呼ぶメンバー選考も…W杯制覇に近い“5強”の現在地

フランスは「絶対崩壊しない」と言い切れない
優勝候補とされる国々は、どこも「優勝できる資質」を十分に持っている。一方で、熱量も重圧も最大級となるW杯は、ほんの小さなゆがみが命取りになる大会でもある。だからこそ、強みだけでなく“不安材料”を乗り越えて行かなければ頂点に立つことはできない。北中米W杯はスペインとフランスが優勝オッズのトップ2だが、絶対的な本命は不在。今回は両国にイングランド、ブラジル、前回王者のアルゼンチンを加えた“5強”の不安材料をメインに、優勝への道筋をまとめてみた。
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・スペイン
EURO王者であり、現時点では最も完成度が高いチームという評価も少なくない。ロドリを軸にした中盤の支配力、ペドリのゲームメーク、そして“神童”ラミン・ヤマルやニコ・ウィリアムズの突破力。ボールを保持できるだけでなく、崩し、切り替え、守備強度などの総合力は非常に高く「最も負けにくいチーム」と見る声もある。
ただ、大会開幕前に負傷者が相次いでいる。最大の懸念はラミン・ヤマルだ。左ハムストリングの負傷により初戦の欠場が濃厚で、第2戦も微妙とされている。さらに、左ウイングの主翼であるニコ・ウィリアムズも怪我明けで、万全とは言い切れない状況だ。
加えて二列目のチャンスメイカーとして期待されていたフェルミン・ロペスも右足第五中足骨骨折でメンバーから外れた。相手を押し込んだ状況で、縦への推進力を加えられる選手だっただけに、かなりの痛手であることは間違いない。ただ、タレントは多くいるだけに、シーズン後の短い準備期間で、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督がいかに最適解を見出していくか。
最終的にはヤマルなど主力の状態が命運を左右すると言っても過言ではないが、あくまで8試合をトータルで考える場合、グループリーグは80%でも十分に突破できるチーム力があるだけに、決勝トーナメントの半ばにピークが来て、ファイナルまで持たせる流れが理想だ。怪我の功名とは言えないが、大会の後半にピークを持っていけることを前向きに捉えたい。
・フランス
選手層は世界最高クラスで、エドゥアルド・カマヴィンガなど、メンバーから外れた選手の豪華さがそれを物語っている。キリアン・エムバペを中心に、スピード、フィジカル、個の打開力は圧倒的。しかもディディエ・デシャン監督が継続的に率いる中で、2018年の優勝、2022年の準優勝とトーナメントを勝ち抜く経験値も豊富だ。
その一方で、このチームは常にギリギリのバランスの上に成り立っているとも言える。エムバペを筆頭に、個の主張が強いスター選手が多く、デシャン監督が絶妙なマネジメントでまとめ上げてきたからこそ、ここまで長く大崩れせずに維持できている側面がある。
だからこそ、フランスサッカー界に今も残る2010年南アフリカW杯の“崩壊”の記憶は無視できない。当時もタレント力は世界屈指だったが、敗戦をきっかけにチーム内の対立が表面化し、一気に空中分解した。
現在の代表はその反省の上に成り立っており、だからこそマネージメント力に優れるデシャン監督が継続しているとも言えるが、もし大会序盤で想定外の敗戦や内部トラブルが起きた場合、「絶対に崩壊しない」と言い切れない。
今大会は広大な北中米の大会で、前回よりタフな環境が各国に影響しそうだが、フランスはフィジカル的な条件面でかなり恵まれている。セネガル戦を決勝の地でもあるニュージャージー、イラク戦をフィラデルフィア、ノルウェー戦をボストンで戦う。ベースキャンプもボストン周辺に置いており、その間の移動距離は約700km前後と、全体の中ではかなりコンパクトな部類だ。
戦術はバランス重視で、局面の個の力が勝負の鍵になる。しかし、どれだけ個のタレント力がベースでも、8試合を戦い抜くにはチームの一体感が必要不可欠になるだけに、どれだけトラブルを回避していけるか、いざ起きた時にどう対処していくかが大事になる。
・イングランド
キャプテンでエースのハリー・ケインを筆頭に、ジュード・ベリンガム、ブカヨ・サカ、デクラン・ライスなど、タレント力は世界屈指だ。年齢的なバランスも良く、ポテンシャルという意味ではフランスやスペインに勝るとも劣らない充実度を誇る。ただ、そうした期待感は毎度のことであり、そこに応えきれなかった歴史がある。
自国開催だった1966年から60年ぶり2度目の優勝を目指すチームの指揮を任されたのが、ドイツ人のトーマス・トゥヘル監督。フットボールの母国であるイングランドでは珍しい人選であり、それだけ今大会にかける意気込みが伝わる。ただ、クラブレベルでは世界屈指の実績を持つ一方で、代表監督として大会をどうマネジメントするかは未知数だ。メンバー選考でも大胆な決断を下しており、すでに大きな議論を呼んでいる。
また、攻撃タレントに比べると守備ラインの安定感には不安も残る。勢いとフレッシュさを優先した構成になった半面、苦しい試合で最後に踏ん張れるかは未知数だ。それでも、イングランドには「今度こそ」という期待を抱かせるだけの戦力がある。得点王の最有力候補の一人であるケインを筆頭に、過去の重圧を乗り越え、トゥヘル監督が短期決戦のチームとしてまとまれば、悲願の世界制覇が現実になっても不思議ではない。
ネイマールに求められる“振る舞い”
・ブラジル
ヴィニシウスを中心とした前線の破壊力はトップレベル。百戦錬磨の名将として知られるイタリア人のカルロ・アンチェロッティ監督の就任によって、近年やや曖昧だったチーム全体の整理も進みつつある。レアル・マドリーなど、欧州のメガクラブで数々のスター軍団をまとめてきた指揮官だけに、“個の集合体”をどう機能させるかには期待が集まる。
最大の話題は、やはりネイマールの電撃復帰だろう。長期の怪我を乗り越えて、名門サントスで試合に出るまでに回復してはいたが、パフォーマンスから代表入りを疑問視する声もあった。一方で国内の人気は依然として高く、待望論があったことも事実。アンチェロッティ監督は出場の確約はできないことを条件に、ネイマールを本番直前でチームに迎え入れた。しかし、選んだ以上はネイマールほどの選手がベンチ中心になれば、本人の意思と無関係に、ほぼ間違いなく論争が巻き起こるだろう。
さらにロドリゴが大怪我で大会欠場となった一方、ラフィーニャ、アリソンなど、本来の主力として考えられる選手に、コンディション不安があることも軽視できない。スペインと同じく、グループリーグの段階で100%である必要がない国ではあるが、チームが整わない段階で前回ベスト4のモロッコはもちろん、血気盛んなスコットランドに足下をすくわれるリスクはある。
それでもブラジルには他国にはない“爆発力”がある。ヴィニシウス・ジュニオール、ガブリエル・マルティネッリ、エンドリッキらが躍動し、ネイマールが絶対的な王様として振る舞うのではなく、良い味付けとしてプラスアルファを加えることができれば、もう一段チーム力を高めることは可能。6大会ぶりの世界一に輝けるか注目だ。
・アルゼンチン
前回王者としての経験値と、スカローニ体制の結束力は依然として高い。リオネル・メッシ中心のチームから、より組織的な集団へと変化し、勝負どころを知るチームになっている。中盤から前線にかけては、エンソ・フェルナンデス、アレクシス・マクアリスター、フリアン・アルバレスら次世代の主力も成熟しつつあり、チーム全体としての完成度は高い。そしてカタールで得た接戦を勝ち抜く自信というものは、ライバルに無い強みだ。
ただ、不安材料として以前から指摘されていたディフェンスラインの高齢化は、大きく改善されないまま、むしろさらに深刻化している部分もある。38歳のニコラス・オタメンディ(ベンフィカ)は依然として最終ラインの主力だが、90分の強度や切り替え、何よりカタール大会よりタフな環境で、短期間で試合を重ねていく勤続疲労は後半戦のパフォーマンスに少なからず影響しうる。28歳と年齢的にはピークのクリスティアン・ロメロ(トッテナム)もシーズン終盤戦に膝を痛めて、閉幕を待たずに帰国した。大会には間に合うと言われているが、ひとつのミスが失点につながるポジションだけに、ぶっつけ本番の不安は小さくない。
また今回は移動距離、気候差、時差対応など、カタール以上にタフな環境になる。もし前回同様、毎試合ギリギリの戦いを繰り返す形になると、決勝までエネルギーを維持できるかは大きなテーマになる。もっとも、グループリーグを見ると、完全に悲観する必要もない。アルジェリア戦をカンザスシティ、オーストリア戦とヨルダン戦はダラスの開閉式スタジアムで戦う。ベースキャンプもカンザスシティ周辺に設定されており、交通の便も良い。北中米大会としては比較的移動負担を抑えられる環境だ。
適度なターンオーバーをしながら、メッシをはじめとしたベテラン勢の消耗をうまく抑えて決勝トーナメントに入れれば、前回同様の勝負強さを再び発揮する可能性は十分にある。結局のところ、このチームは「完璧だから勝つ」というより、「苦しみながら最後に勝つ」タイプ。その独特のしぶとさは、今大会でも健在だろう。
・その他の有力国
ポルトガルは攻守にバランス良くタレントが揃い、初優勝のポテンシャルは十分にある。ただ、41歳で6度目のW杯となるクリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)はさすがにパフォーマンスを落としてきており、それでも主力から外せないことが、ファイナルまで上り詰める足枷となるか、それとも「やっぱりロナウド」と称賛される活躍で大団円となるか。「+1」として選出された故・ディオゴ・ジョタと共に戦う大会になるが、どういう結末になるか。
ドイツはナーゲルスマン監督のもとで世代交代を進めており、超攻撃的なスタイルはスペインともまた違ったダイナミズムが強みとなる。守備のリスクは大きくなる中で、指揮官が最後の最後にマヌエル・ノイアー(バイエルン)の復帰を決断したが、チームにどう影響を与えるのか。マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(ジローナ)の長期離脱を受けて、オリバー・バウマン(ホッフェンハイム)が継続的にゴールマウスを守ってきたが、おそらくノイアーが第1GKのポジションに戻る中で、チームとしてのまとまりは気になるところだ。どちらにしても、まずは2018年ロシア、2022年カタールと、連続グループリーグ敗退している負の連鎖を断ち切る必要がある。
オランダはロナルド・クーマン監督が伝統的な4-3-3を継承しながら、フィルジル・ファン・ダイク(リバプール)を中心とした守備の安定感が強みになっている。トータルバランスの崩れにくさはある一方、接戦を決め切る絶対的エースの不在は課題として残る。コーディ・ガクポ(リバプール)が前回を超える活躍をする期待もあるが、強豪との対戦ではセットプレーの得点力やPK戦を含めたギリギリの戦いでの勝負強さが問われそうだ。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。


















