観客動員の惨状、戦火の足音…ACLEが抱える「闇」 解決策となる現実的な開催地とは?

女子アジアカップが開催されているオーストラリアへの「集中開催地の移行」
AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)は、ラウンド16の激闘を終えた。ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島、FC町田ゼルビアら日本勢は、無事準々決勝に歩みを進めている。しかし、ピッチ上の熱量とは裏腹に、スタンドに広がる空席の多さは、もはや無視できない「闇」として大会のブランド価値を蝕んでいる。
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J1リーグの集客力は、かつてない高まりを見せている。2025-26シーズンACLがスタートした後のリーグ戦の平均観客動員数で考えると、広島は新スタジアム効果もあり平均2万6264人、神戸は1万8998人、町田は1万6247人と、いずれも地域に根ざした熱狂を数字で証明している。しかし、同じスタジアム、あるいは同じホームタウンで開催されるACLEに舞台を移すと、その光景は一変する。
今大会、日本勢のACLEホームゲームにおける平均観客動員数は、広島が1万0249人、神戸が7698人、町田は5183人に留まっている。リーグ戦と比較すれば、広島は約61%減、神戸は約59%減、町田にいたっては約68%減という惨状だ。週末には2万6000人を熱狂させる広島のスタンドが、アジアの頂点を決める戦いでは半分以下の静寂に包まれる。この「日常以下の価値」しか提示できていない現実は、あまりに重い。
集客という内因的な課題に加え、現在、大会の継続そのものを脅かしているのが外因的なリスク――中東における政情不安である。
2026年3月に入り、中東地域での紛争拡大は極めて深刻な局面に達している。サウジアラビア、イラン、UAEといった強豪国がひしめく西地区は、大会の興行面・実力面の両輪を担う存在だ。しかし、安全が保証されない状況下で移動の制限や、ミサイル攻撃の懸念に怯えながら大会を継続することは、選手のコンディション面でも、大会の公平性においても限界ではないだろうか。
もはや「事態の沈静化を待つ」という消極的な姿勢では、アジアナンバーワンの称号は守りきれない。物理的な「安全」と「開催の安定性」を確保するための決断が、今すぐ求められている。
ここで一つの現実的な解決策を提言したい。現在、女子アジアカップが開催されているオーストラリアへの「集中開催地の移行」である。
2026年3月、オーストラリアでは女子アジアカップが開催されており、現地には既にAFCの主要スタッフが滞在し、運営のオペレーションがフル稼働している。シドニー、ゴールドコースト、パースといった開催都市では、スタジアムの準備も、国際大会を受け入れるためのロジスティクスもすでに完成している。
このリソースをそのままACLEの決勝トーナメントにスライドさせ、中東で行う予定だった西地区の残り試合、および準々決勝以降の全試合をオーストラリアに集約させるのはどうか。
シドニー周辺など、近隣の2都市程度で開催を集中させれば、運営の効率は飛躍的に高まる。何より、戦火から遠く離れた地で、選手とスタッフの安全が物理的に担保されるメリットは計り知れない。
そしてもう一つ。単に場所を移すだけでは、前述した「集客不足」の再生産になりかねない。そこでAFCが主導すべきは、各国サポーターに対する「渡航と宿泊の劇的なハードル低下」である。
中東での開催が困難になったことで浮くはずの巨額の警備費や、複雑な政治的調整コストを、サポーター向けの「渡航・宿泊支援パッケージ」に大胆に充当すべきだ。
AFCが開催都市の宿泊施設を安価に一括手配し、日本、韓国、そしてサウジアラビアなどの西地区からもファンが来やすい環境を作り上げる。「アジア一を決めるお祭り」を、安全な第三国で作り上げるのだ。
「アジアの頂点を決める戦い」を、戦火の届かない、そして誰もがアクセスしやすい安全な地で祝祭として開催する。このパラダイムシフトこそが、ACLEに欠けている「大会としての格」と「集客力」を同時に取り戻すカギとなる。
ACLEは今、ブランドとしての正念場を迎えている。スタンドを覆う静寂と、中東から聞こえる戦火の足音。これらを放置することは、アジアのサッカー文化の衰退を黙認することに他ならない。
女子アジアカップとの「相乗り」によるオーストラリア集中開催は、一見すれば緊急避難的な策に見えるかもしれない。しかし、それは同時に、混乱するアジアにおいて「サッカーを止めない」というAFCの強い意志を示す絶好の機会でもある。広大なオーストラリアの大地で、安全に、そして熱狂的な観衆の前で、真のアジア王者を決める。その決断こそが、アジアサッカーの信頼を回復させ、未来へ繋ぐ唯一の道である。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。




















